デジタルハーツホールディングスの経営においても玉塚の頭の中にあるのは「突入」だという。企業のポテンシャル、本気で改革に挑もうとする創業者の決意、それらを判断して取り組むことを決めた。それにしても、なぜ「突入」なのか。
「経営は本当に難しいということです。マーケットの変化が激しく、さまざまなステークホルダーも関与する。そのためにはちゃんとしたポジションでコミットして、みんなを巻き込んでいかないとできない。それはとても大変なことなんです。みんながお手並拝見という姿勢でいるなかで結果を出し続けないといけませんから。中に入り、みんなと一緒に汗をかかないとできないことなんです」
デジタルハーツホールディングスが玉塚に託したのは企業再建ではない。あくまでも求められているのは企業の成長だ。しかし、うまくいっているものに手を出すことほど難しいことはない。
玉塚は大胆に「突入」しながらも、丁寧に物事を進めている。その現れの一つが、コミュニケーションの密度を高めることだ。
「会社を変えるときにはコミュニケーションが大事です。いまデジタルハーツホールディングスでは、第二創業としてさらなる成長に向けた新たなチャレンジをしています。社員はお手並み拝見と注目していたと思いますが、いまのところ、大きなプロダクトや新しいクライアントとの取り組み、会社が提供できるソリューションをどんどん見せることができています」
玉塚は、社内のコミュニケーションマネジャーをずっと務めてきた社員に、メールマガジンやさまざまなツールを使い、いま会社がどうなっており、何を目指しているのかを発信させている。
時には自ら社員の前に立ち、直接話をする。一つひとつの結果を見せ、信頼関係を構築していく。
社員を巻き込みながら、ソフトウェア領域におけるテスト、そしてサイバーセキュリティの部分での人材輩出プラットフォーム企業になることを目指していく。
語るほどに眼に強い光をたたえ、熱く言葉を継ぐ玉塚にふと「ラグビーを観戦していて熱くなるプレーを教えてください」と尋ねると、彼は少し考え、こう答えた。
「勇敢なプレーですね。巨漢の足元に飛び込んでタックルする。みんなが嫌がる、痛いプレーを果敢にやっている姿というのはすごいなと、素直にリスペクトしてしまいます。大好きなのはオールブラックス(ニュージーランド代表)で活躍したリッチー・マコウ。彼は常にモール(ボールを保持して立っている選手に、敵と味方それぞれ一人以上が身体を捕まえて密着した状態)やラック(敵と味方少なくとも1名ずつのプレーヤーが接触しており、立ったまま地面にあるボールに被さっている状態)の一番下にいる。傷だらけになって、それでも真っ先に突入していき、みんなにカラダで示している。これくらい勇敢に、これくらい本気でやらないと我々はオールブラックスの名に値しないと伝えている」
この玉塚の言葉のなかに、まさにリーダーシップの本質があるのではないだろうか。
玉塚元一◎1985年慶應義塾大学卒業後、旭硝子株式会社(現:AGC株式会社)入社。日本IBM株式会社を経て1998年株式会社ファーストリテイリングに入社、2002年代表取締役社長 兼 COOに就任。05年9月に企業再生・事業の成長を手掛ける株式会社リヴァンプを創業。10年11月、株式会社ローソンに入社。14年代表取締役社長に就任。17年より現職。