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2019.05.09 11:00

現場の感情に向き合う「的野イズム」が支えるスタートアップシティ・福岡


現場主義と地域に対する使命感が生んだ「よかなび」

20代の6年間、そうしたタフな業務に携わった。市役所の組織から離れた団体業務であったため、6年間市役所の組織の中がどうなっているか、よく分からなくなっていたという。その後、市役所に戻り配属になったのが「まちづくり」を担当する部署だ。「まちづくり」と聞くと華々しい印象を抱くが、 寂れてしまった地域をどうやって盛り上げていくかという、これまた泥臭い業務であった。

主な業務は地域の人と地域を盛り上げるイベントや町内会規模のお祭りの企画や支援。ここでの業務に、前の部署で培った「市民の感情と向き合う」という現場主義が活かされた。

祭

「地域の人との対話を続ける中で徐々に信頼を得られていく実感がありました。四角四面の公務員ではなく、柔軟で住民に寄り添うというスタンスのおかげで、担当した地域の住民も自分を歓迎してくれるようになったんです。会社の営業パーソンと同じように、日々のコミュニケーションをとにかく大事にしました」

的野を動かしていたのは、「自分がこの地域を任されているんだ」という使命感であったという。次に異動した観光課では、イベントやお祭りに関する業務だけでなく、自分の「建築」というバックグラウンドを活かし、公衆トイレや展望台など観光地の施設管理の業務を1年ほど行うことになる。

「古くなった観光案内板などの補修ばかり指示されていたのですが、今の時代、観光客は携帯やパソコンで観光地の情報を集めるのに、本当にこの仕事は意味があるのかと感じるようになりました。そこで、ガラケーやパソコン向けの情報サイトを自ら企画するようになったんです」

自らの足で東京へ向かい、当時まだ日本に上陸したばかりのグーグル、サイト開発に詳しい企業を訪ねるなかで、自治体のサイトの中にグーグルマップ、ユーチューブを導入した初めてのサービスが誕生した。それが「よかなび」である。ぐるなびと連携した福岡・博多の観光案内サイトで、当時としては画期的であったユーチューブのシステムを利用していたことで注目を集めた。

「支店経済」福岡の限界

「よかなび」で一躍注目を集めた的野は「観光部門」から福岡市役所の企画調整部へ異動となった。会社でいうところの経営企画部である。

「どうやって福岡市の経済を発展させるか」それが新しい的野のミッションであった。しかしまだその頃はスタートアップの「ス」の字も頭になかったという。

「議論の中で多く上がったのが「福岡市の観光」を活用するという施策。北九州市をはじめ、他の自治体に比べて福岡市にはメーカーの数が少なかったんです。
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文=大木一真 写真=小田駿一

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