遺伝子のスイッチの切り替えで「がん細胞の増殖を止める」驚異の試み

スティーブン・ベイリン博士(NHK提供)


平井:この話はがんに限らず、自身の健康の話にもつながってくるかもしれない。いままで治せないと思っていたものが、自分の力で治せるようになるかもしれないということですよね。どうすれば、その遺伝子のスイッチのオン/オフをコントロールできるようになるのでしょうか?
 
浅井:それには、まだもう少し時間がかかります。ただ、そんなとんでもない仕組みが自分自身の中にあると知れば、ワクワクしますよね。環境要因によってスイッチが切り替わる可能性があるわけですから。
 
平井:確かにそうですね。それが明らかになればなるほど、遺伝子に合わせた健康提案などもできるようになるわけですね。
 
浅井:もちろん、そうしたことも将来は可能になるかもしれません。ただ、そもそものメカニズムとして、遺伝子のスイッチは、変わりやすいものから変わりにくいものまで千差万別ですし、複数の遺伝子のスイッチが関係していたりして、実に複雑怪奇な構造になっています。しかも、遺伝子以外の98%の部分など、DNA全ての働きがわかっているわけでもありません。全体像を知るためにはまだまだ長い年月がかかると思います。



とはいえ、いま、その仕組みに気づき、全容の解明に乗り出そうとしている。研究者の方々の探究心と胆力はすさまじいと思います。研究者の多くは、この研究は慎重に進めていくべきだと考えています。生命倫理とも深く関わるテーマですしね。

ある研究者は、「遺伝子を不用意に扱った結果、遠い将来に人類が滅びてしまうようなことになってはいけない」、と強く警鐘を鳴らしています。直近の利益と遥か先の可能性、その両方に対して、目配せしていかなければならないのだと思います。
 
平井:今回、「人体Ⅱ 遺伝子」という番組をつくるなかで、浅井さん自身、変わられた部分はありましたか?
 
浅井:細かい変化ではないのですが、気持ちが変わりましたね。とにかく、前向きになりました。今日努力することが、何かしら新しい次に繋がるっていう仕組みが、カラダの中に内在されているというのは大きいですね。それを思うと、自分はまだまだ変化していけるし、丁寧に前向きに取り組めば、そのことがちゃんと反映されて、人生なり健康なりを構築していける。すべてが、あらかじめ決定づけられているわけではないということがわかったわけですから。
 
平井:確かにそうですね。健康的な行動を続けることで、確かに変わっていけるという実感は本当に大切なものです。僕自身、これまで続けている「健康につながる活動」を、もっと丁寧に続けていこうと思います。
 

浅井健博◎1994年、NHK入局。大型企画開発センター チーフ・プロデューサー。専門は科学ドキュメンタリーの制作で、主にNHKスペシャルを担当。これまで「足元の小宇宙」「腸内フローラ」「新島誕生西之島」「ママたちが非常事態」などの番組を制作。放送文化基金賞、科学技術映像祭、科学放送高柳賞等を受賞。「シリーズ 人体Ⅱ 遺伝子」の制作統括。


文=平井孝幸

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