このアイデアにさらに改善が加えられたのは1987年のことだ。ノースウエスト航空のパイロット、ロバート・プラスは車輪の付いたスーツケースを直立させ、長方形のハンドルをつけることを考えた。最初は航空会社の乗務員向けに販売されたこのかばんは「ローラボード」と名づけられ、旅行かばん企業トラベルプロ(Travelpro)の誕生につながった。
以降、多くのデザイナーや企業がこの競争に加わってきた。現在は目が回るほど多種多様なキャスター付きスーツケースが出回っており、価格やサイズ、ハードタイプやソフトタイプ、素材、作り付けの仕切り、携帯電話の充電のためのUSBポートや電池、タブレットスタンド、洗濯物用バッグ付きなど、さまざまな違いがある。もちろん、車輪についても2輪と4輪のタイプがある。
車輪付きスーツケースは空の旅に限らず、バス停や駅までの移動、大学寮の部屋までの移動、あるホテルから別のホテルへの移動などの場面で活用できる。キャスター付きスーツケースは、無数の旅行者、特に女性や高齢者を重い荷物運びから解放したのだ。
人類は1969年、旅行かばんに車輪をつける前に、月へ人を送ったと言われることが多いが、キャスター付きスーツケースの普及の障壁は社会的受容にあったのかもしれない。重いスーツケースを引きずることは「男性の仕事」だと考えられていた。
これほどシンプルなコンセプトが実現するまでに、なぜこれほどまで長い時間がかかったのだろう? セードーは門前払いされたとき「車輪がついたスーツケースは男性に決して受け入れられない」と言われたという。「とても男性的な考え方だった」とセードーは述べた。キャスター付きスーツケースの勝利は、この考え方を永遠に葬ったのかもしれない。