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「あめ玉」を通して、いつでもどこでも禅の体験を

成瀬:多くの人は禅や瞑想と聞くと、難しく考えてしまいがちですが、体験することを「あめ玉をなめる」という身近なものに置き換えたら、身近だしすごくわかりやすい。あめ玉をなめることが禅を味わうきっかけになるわけです。

そうすることで、例えば満員電車で大変な状況でもあめ玉をなめたら、禅を体験したときの気持ちになれる。必要なのは心の切り替えだけなので、それも感じてもらえたらいいですね。


退蔵院の中で取れた柚子と、アーユルヴェーダなどで使用される瞑想効果のある薬草ゴツコラのエキスとローズウォーター、食べられる杉パウダーと水飴とで作った手の込んだあめ玉

松山:禅にはこのような言葉があります。「安禅(あんぜん)は必ずしも山水を 須(もち)いず心頭を滅却(めっきゃく)すれば火も自(おの)ずから涼し」。満員電車であっても心頭滅却すれば、禅の境地にいける。

成瀬:慌ただしく生きていると、外部環境で心の浮き沈みが出来てしまう。でも、このあめ玉を通して、どんなときでも禅の気持ちが味わえたら心に余裕ができ、感情の洪水に呑まれなくなるはずです。

限界が来た、お寺のビジネスモデル。今後の解決策は?

松山:「ON THE TRIP」の音声ガイドもそうですし、今回の「ひと粒の禅」もそうですが、こうした取り組みは私たちにとっても非常にありがたいものです。先ほども話した通りですが、心の琴線に触れる体験をどう提供するか。多くのお寺は課題に感じています。昔は綺麗に掃除しておけばよかったが、今はそれでは伝わらない。そういう意味で、音声ガイドは手軽にみなさんの心に琴線に触れるチャンスを与えてくれるツールになる。まだまだ伝え方に困っているお寺もあって、こうしたツールが普及するのは良い流れだなと思います。逆にお寺側から、そういった発想が出てくるのはなかなか難しいんです。



成瀬:お寺側の人たちは「継続する」ことに重きを置いて、ずっと続く仕組みを作ってきたわけです。そうした中で、僕たちのようなツールは仕組みを壊すことにもなりかねない。そのため、内部から新しいアイデアが生まれにくいんだと思います。

でも、以前あるお寺の住職が、伝統とは同じことを続けることではなく、前衛の積み重ねにあると言っていました。昔のお寺はそれこそ最先端の場所でしたから、本来なら新しい取り組みは受け入れやすい場所だと思っています。

松山:あと、個人的にはお寺の業界でも50歳くらいを境に世代間で壁があると感じています。50歳より上の人は葬式仏教で逃げ切れると思っている。実際そうだと思います。ただ、私たちは絶対無理だとわかっているんです。だから、今は脱・檀家依存をテーマにしています。

これは檀信徒をないがしろにするという意味ではなく、過度な依存状態をなんとかしないといけないという意味です。今までのお寺は一般的に収入の100%を檀家さんからのお布施で得ていました。それは非常に不健全だと思っています。高齢化が進み、平均寿命も高くなっている。そんな状況で葬式、法事だけで収入を賄うのは無理がある。そして、檀家さんもすごく負担に感じている。

お寺は安心を与えなければいけないのに、むしろ檀家さんに負担や不安を感じさせてしまっている。これではシステムとして続かないし、そこから脱却しないといけない。お寺はハード面は素晴らしいものがある一方、稼働率はすごく低く、ソフト面で課題がある。下手したら週末の午前中しか使っていないくらいで、まだまだいろんなやり方がある。私たちから心に琴線に触れる体験を提供するアプローチをしていかなければいけない、と思います。

成瀬:僕もいろんなお寺や神社の人と話をするのですが、そこで感じるのは「ここでしかできない体験は何か」を伝えきれていないということです。ありふれた情報ばかりを発信してしまっている。よく聞くと、魅力はたくさんあるのに、自分たちで把握できていないから発信できていない。そこにしかない魅力、体験を発信できれば、訪問者の感受性に届くはずです。

あと個人的には拝観料の安さも課題に感じています。長く続けていくことが価値になる中で、維持管理にはお金が伴う。売上を上げていかなければ維持管理ができないので、売上を上げるには拝観料を見直す必要もあると思います。それは単に値上げするという話ではなく、付加価値を提供することで値上げするというものです。スペインのサグラダ・ファミリアは3000円くらいの拝観料がかかるのに、日本は1000円以下が当たり前。もっと付加価値を提供していくことが重要になってくると思います。

だから、僕たちがいま一番力をかけているのが、寺社や美術館と連携して、拝観料や入館料をあげるかわりにオーディオガイドなどの付加価値を提供する取り組みなんです。

松山:自分の言葉で発信して、魅力を伝える。今回は個人的にも良い機会をもらったと思います。5年前はこういったことができることも想像できていなかったですが、今後、5Gの時代が来て、VRが当たり前のものになる。そうしたら、また新しい体験も提供できるようになる。そのとき、そのときで使えるテクノロジーを使いながら、本質は変えず、魅力を届ける努力をしていきたいと思います。

構成=新國翔大、写真=ON THE TRIP提供

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