「第4のYMO」と呼ばれたシンセサイザーの神様がこだわる日本の音


シンセサイザーに、日本の伝統を取り入れる

日本人ならではの音楽を創造する時、日本に根付く伝統は非常に大切なものです。松武さんがモーグシンセサイザーを手に入れたとき、操作説明書のようなものはは一切なかったそうです。セオリーがない分自由度はあるが、故に決まった音が存在しないのがシンセサイザー。そこに、松武さんは日本の伝統的な音を用いて試行錯誤してきたそうです。

「モーグシンセサーザーで音をつくるトレーニングとして、日本の伝統楽器の音を研究しました。大抵の楽器は、吹く、たたく、 擦ることで音を出すわけですが、モーグには、それらと同様の音を出すための仕組みが全て入っています。ある意味、どんな音でも作れるわけですが、まずは伝統的な日本の音を真似ていきました」

しかし、ある時、冨田勲先生に、「真似ばかりしても仕方がない。自分の音を作りなさい。そのためには”音の設計図”を描きなさい、そして自分の音を作りなさい」と言われ、ショックを受けたそうです。

「試行錯誤の連続でしたが、日本の伝統に対する敬意とともに音を再現しようとした経験と苦労があったからこそ、モーグの音を自分のものにできたのだと思います。実験の繰り返しが、新しいものを生み出すエネルギーの源泉なんです」



松武さんは、日本の伝統文化を大事にしており、様々な伝統とのコラボレーションを積極的にされています。最近では、前回の記事に登場した刀鍛冶の川崎晶平さんとのコラボレーションイベントも成功させています。

「僕には日本人としての誇りがありますし、伝統に対する尊敬の念があります。日本の古典の素晴らしさをきちんと学び、認めた上で新しい試みにチャレンジしていきたい。伝統というと過去と同じことを繰り返すイメージが強くなるかもしれませんので、『伝承』という言葉で感じ取ってもらえればいい。シンセサイザーの音楽を『伝承』するのは、伝統の世界の本質を見直す良い機会なのではないでしょうか。

伝承とは、師の教えを理解するだけでなく、自分の中で違う形へと創造できるように伝える方法と言えます。日本人であることにこだわり、日本の伝統を学びながら、これからもずっとシンセサイザーの伝承を続けてきたいですね。また伝統や伝承に限らず日本というフィールドにもこだわっていきたいと考えています。私は、そうした夢と夢をつなげ合わせ、昔やりたくても出来なかった『音楽革命』を起こしたいんです」

松武さんにとって、2018年はYMO40周年にあたる節目の年でした。今もなお、松武さんのクリエイティブな発想は日本の伝統とのコラボレーション、最先端のテクノロジーとのコラボレーションと途切れることなく膨らんでいます。たとえば、VRアーティストGod Scorpionや書道家神郡宇敬氏とのコラボレーションでは素晴らしいパワーとパフォーマンスを披露してくれました。また、「シンセの歌姫」と呼ばれるアーティスト、山口美央子さんとの音楽活動も再開し、精力的に活動しています。

お話をするたびにいつも過去の伝統の素晴らしさ、未来へのアイデア(夢)を語られている松武さん。これからも伝統とテクノロジーを融合した新しい未来の姿を我々に見せてくれることでしょう。

連載:エリック松永の”Innovation and beyond”
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文=松永エリック匡史

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