「第4のYMO」と呼ばれたシンセサイザーの神様がこだわる日本の音

松武秀樹氏


「本来の音をごまかすためにテクノロジーを使ってはいけない」

テクノロジーの発展は、音楽をよい方向に導いているのか? これは今も昔も続く議論です。かつてはほぼ一発録り、ライブ演奏主体だったレコーディングが、技術の発達で何度も録音できるようになり、今では音程まで修正できるようになりました。どんなに音痴でも、リズム感がなくても完璧な音楽を作ることができる時代になったのです。

音楽にテクノロジーを持ち込んだ先駆けでもある松武さんは、音楽を創るときには、本来の音をごまかすためにテクノロジーを使ってはいけないと考えます。

「音楽って、さらけだしてなんぼのモノなんですよ。下手でもいいの。自分自身をさらけ出すから、人は感動するんだから。もちろん、テクノロジーそのものを否定しているわけではありません。ある局面ではテクノロジーを引っ張りこまなければいけない。そのためにも、電子楽器であるシンセサイザーが今まで音楽、そして我々の心に何を響かせてきたのか、それによる変化やシナジー、影響を改めて考えなければならないのです。

電気は無限ではありません。にもかかわらず、シンセサイザーは電気を必要としている。テクノロジーの多くも、電気を必要としている。だから音楽家は、環境を含めた大きな視野で考えなければいけない時代になってきているのです」



不完全、不自由なものからクリエイティブが生まれる

かつては大きな筐体で高価だったシンセサイザーも、ソフト化されスマホアプリとして安価で使える時代になりました。UI/UXも改善され、高品質のシンセサイザーと遜色がないくらい、簡単に自動演奏が楽しめます。でも、全ての音楽環境が簡単に手に入れられるのが必ずしもいいとは限りません。

松武さんは、「不完全さや不自由さと、クリエイティビティには何らかの相関関係があると思いますね。機材がなかなか手に入らなかった当時は、簡単には表現したいサウンドにたどりつけませんでした。だから自分たちが満足するサウンドを出すため徹底的に勉強し、頭で考えて工夫し、努力するしかなかった」と当時を振り返ります。

当時のシンセサイザーには記憶装置がなかったので、自分の頭に記憶させるか、書いて覚えるしかない。それでも、ちょっとした電圧の差で音が変わるので、メモ通りにセッティングしても完全に同じ音はできません。

「今のようにボタンをちょこっと押すくらいで簡単に欲しいサウンドが出てきてしまう状態では、クリエイティブなものは生まれてこないと断言できます。音楽家には、不完全で答えのないものについて答えを出そうとすることが絶対に必要で、私にとってはそれがシンセサイザー存在だったのです」
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文=松永エリック匡史

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