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2019.05.06 12:00

ブラジャー革命で透けて見える「女性と日本経済」次のフェーズ

ワコールがミツフジと共同開発した「iBRA」

ブラジャーの進化とは? そう聞かれて思い出すのは、「寄せて上げる」「バストコンシャス」「無縫製」など、見た目の美しさや着心地の追求が挙げられるだろう。

こうした質の追求の一方で、レディス下着の国内市場規模は2011年以降、人口減少にともない微減傾向にある。

各メーカーが新商品を模索するなかで、概念を変えるブラジャーが登場した。4月25日、ワコールが発表した「働く女性のためのブラジャー型ウェアラブルiBRA(アイブラ)」だ。これは、ブラジャーから生体データを取得し、自らの健康を管理できるというもの。つまり、外見の美だけではなく、健康という「内面からの美」に切り込む。長いブラジャーの歴史を見ても、モノの価値を大きく変える画期的なブラジャーだろう。

開発にあたっては航空会社Peach Aviationが協力。実際に客室乗務員が着用して検証を行った。

周知の通り、ワコールは国内シェアNo.1。女性の体型を徹底的に調査・研究して商品開発を行ってきた日本のものづくりを代表する大企業である。しかし、2008年にユニクロが「ブラトップ」で下着業界に参入し、その後も低価格の「ワイヤレスブラ」を大ヒットさせて、国内販売シェアで王者のワコールに肉薄。昨年、新聞やテレビなどメディアが一斉に「ワコールVS.ユニクロ」と報じた。

こうした報道の裏で、ワコールは「アイブラ」の開発を密かに進めていたのだが、共同開発の相手として組んだのが、同じ京都を創業地とする中小企業、ミツフジだった。ここが今回のニュースのポイントであり、アイブラがもたらす意味を理解するうえでも重要になる。

ミツフジは2014年頃まで京都府城陽市にあるボロボロのプレハブ小屋のような建物が本社で、「外にあるトイレに入ろうにも、ドアが錆びて閉まらない状態」(三寺歩社長)だったという。創業は1956年と古く、60年代に西陣織業からラッセルレース業に転換。斜陽化する繊維業界のなかで、抗菌・消臭靴下を生み出した独自素材「銀メッキ繊維」で成功した時期もあったが、取引先だったカネボウの消滅で打撃を受けた。大企業に経営を左右されるのは、日本の中小企業の典型的な姿である。さらに、主体的な事業展開ができず、経営難に陥り、工場と土地を手放していた。

本来なら、後継者がいないため、廃業と同時に技術も消えていく「大廃業時代」を象徴する話になるはずだった。

2014年、前社長の長男、三寺歩が東京のサラリーマン生活を辞めて、借金返済のため社長に就任。当時、社員は3人。廃業寸前だったミツフジの逆転劇を整理すると、次のようになる。

1. 客に話で「発想を転換」

同社の銀メッキ繊維は靴下やスーツの裏地などに使われ、抗菌消臭分野を切り開いたが、抗菌剤というライバルの登場で価値が下がった。しかし、少量の銀メッキ繊維を複数の電機メーカーの研究所が購入していたことに、社長の三寺が着目。話を聞きに行くと、意外にも「導電性」を絶賛された。「繊維=衣類」の発想から脱却し、ウェアラブル分野への進出のきっかけとなる。

2. 古い技術との融合

伸縮する布そのものがセンサーとなり、身体データの取得で他社を圧倒できたのは、「糸」以上に「織り」に秘密があった。これは、昭和の時代からの継承していた技術で、繊維業の斜陽にともない、機械も技術も国内からは消滅していた。てんかんの予知を研究していたフランスのバイオ企業を皮切りに、海外がいち早くミツフジに注目し、注文が入るようになる。

3. 最終商品ではなく、カスタマイズ

ウェアラブルは成長分野なのに進化を遅らせているのは、衣服、生体情報を発信するトランスミッター、モニタリング用のアプリ、データ蓄積のクラウドといった各パートを別々の会社で開発させているからだと気づき、ミツフジはトータルで開発し、顧客のニーズに合わせてカスタマイズすることに。完璧な最終商品を売り出すのではなく、顧客と一緒につくるのだ。
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文=藤吉雅春、眞鍋武

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