「Jリーグを使い倒せ!」若き女性理事が熱狂を生み出す

米田惠美 公認会計士、公益社団法人日本プロサッカーリーグ理事(フォーブスジャパン5月号より)

社会課題の解決を阻む要因は、当事者意識の低さである─。Jリーグの理事となった米田惠美は、Jリーグ発足25周年に「Jリーグをつかおう!」という考え方の大転換を打ち出した。「Jリーグは当事者を生み出す装置になれる」と語る米田が目指すものとは?


よくある記念式典でなく、サッカーという枠も超えている。昨年5月、Jリーグは25周年の節目にユニークなイベントを開いた。題して、未来共創「Jリーグをつかおう!」。

約300人の参加者が54のテーブルに分かれて議論を交わすというワークショップだ。Jリーグのクラブ関係者や選手をはじめ、地域のNPOや医療従事者、学生や主婦など外部の人も多く、4時間以上にわたって、「Jリーグを使って何ができるのか」を話し合った。

最後には元チェアマンの川淵三郎が「こういう発想は僕にはない。こういうことをやっていただいてものすごく嬉しい」と挨拶し、「有意義な会だった」と涙ぐんだ。

この日の立役者こそが、35歳の若き理事、米田惠美だ。現在、彼女はJリーグで、経営改革とともに社会連携の推進を担っている。自身の思い入れを示すように、熱を帯びた言葉でこう振り返る。

「“Jリーグが”という主語でやってきた地域活動を、“地域の人たちが”Jリーグと、という形に変えたかったんです。自分の興味や関心のためにJリーグをつかおうと呼びかけることで、皆が当事者に変わる。このイベントはその第一歩でした」

現在55あるJリーグのクラブは、スポンサー名でなく地域名を名乗り、選手や関係者が地域貢献の活動に参加するホームタウン活動を展開している。

その数は、年間1万8000回超。Jリーグの「豊かなスポーツ文化の振興および国民の心身の健全な発達への寄与」という理念を体現するものだ。

ただ、その活動は、広く一般の人にまで周知されているとは言えない。クラブには、継続していくことへの限界を訴える声もあった。

そこで米田は、ホームタウン活動を、地域の人たちと一緒に取り組む「共創モデル」へと移行することを打ち出した。それはJリーグにとっての経営戦略でもある。人口減少を迎えるこの時代、「地域が持続可能であることはクラブの安定的継続にも繋がる」からだと話す。

「サッカー観戦をしたい人は人口の1〜2%が限界値と言われていますが、地域を良くしたい人はもっといる。社会の価値観がソーシャルグッドに寄っていくなかで、地域という接点から、徐々にサッカーやチームを好きになってもらうという流れがあってもいいのではないかと思ったんです」

米田はもともと公認会計士で、さらに組織開発に携わってきたキャリアをJリーグの村井満チェアマンに買われて、昨年3月現職に就いた。だが米田は、一旦はオファーを固辞したという。

村井が望む組織の健全化と改革のスピードアップを進めるためには、憎まれ役を担わなければならない。しかも若い女性で、サッカーに関わりのない人間とくれば、反発を招くのは必至だ─そんな葛藤があった。

予感は的中。理事になってからは「相当波風が立っている」と自他ともに認める。前述のイベント企画を巡っても衝突は絶えなかった。

そんな過酷な仕事になるとわかっていながら、覚悟を決めたのはなぜか。

「地域を豊かにするJリーグのポテンシャルに可能性を感じたから。それが私の人生のミッションとも繋がると思いました」
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text by Chika Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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