大恐慌がもたらす本当の恐怖は? 「働く」を巡る3つのストーリー

ゴールドマン・サックス、NYオフィスのダイニング施設

金融業界やIT企業などで採用されている「フラット組織」はメリットばかりなのか? AIによる効率化がイノベーションをうむのか? 働くことに関してはさまざまな「神話」がある。以下、3つのストーリーを紹介する。

大恐慌がもたらす本当の恐怖は?

19世紀産業革命の恩恵を受けて繊維工業で栄えていたウィーン郊外の村、マリエンタールは世界大恐慌のあおりを受け、1929年の夏から衰退を始める。街は取り壊された工場や機械であふれて荒廃し、人々は職を失い路頭に迷った。

ウィーン心理学研究所などから十数人の社会心理学者が村に派遣され、世界で初めて体系的に失業の影響を詳細に調べ、まとめあげた結果は衝撃的なものだった。失業が革命思想に結びつくのではとの想定から始められた調査だが、人々は過激になるどころか、無気力になっていた。

失業手当を受けている人々は時間の感覚を失い、子どもは将来への意欲を失い、ペットの犬は食用に盗まれ、手当の不正受給を互いに密告、コミュニティは崩壊した。

調査員たちは仕事には組織立った活動、経験の共有、地位、全体の目的といった潜在的な機能があり、街の悲劇の原因は貧困だけではないと結論づけた。

最も稼ぐ金融マンが「炭鉱のカナリア」?

金融大手、ゴールドマン・サックスでの勤務経験があるペンシルベニア大学の経営学者、アレクサンドル・ミシェルが研究したのは仕事に対する「心理的オーナーシップ」だ。

第二次大戦後の経済成長と消費主義の隆盛で、長時間労働は高地位と権力の証しとなり、ホワイトカラーがブルーカラーよりも2倍残業(その多くが無償)するようになった。

オフィスのデザインは、8時間労働用ではなく、キッチンやカフェ、カー・サービス、クリーニングなどのサービスが併設され、仕事と余暇の時間の境界をなくした「週7日24時間」労働用となった。

また、金融界だけでなくコンサルティング会社、メディア、IT企業などで採用されている「フラット組織」や「360度評価システム」も上司不在で相互監視の結果、リスクを避けるようになるなど、マイナス面が多くあると指摘する。

「社会的相互信頼」が経済成長やイノベーションに直結する?

2017年、フィンランドはEUで初めてベーシック・インカムを試験的に導入した。

2年間の事例だけでは効果は測定できないが、余分の収入でボランティアにより時間を割くようになった、サイドビジネスを立ち上げたなどポジティブな事例もいくつか報告されている。

17年の調査では米国で「政府を信頼している」と答えたのはたったの18%で、直近の調査では3分の2の人々がニュースメディアや店舗の販売員、運転手を信頼していないと答えたという。

社会的相互信頼度の経済成長、特にイノベーションへの効果を研究するメリーランド大学の政治学者エリック・ウスレイナ―によると、米国では自動化での雇用の削減による効率化がイノベーションと考えられているが、多くの社会では革新はより深く文化に根付いたものであり、フィンランドでは機会を創出することだと認識されている、という。

インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=マルチン・ウォルスキー 構成=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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