今回の実写作品は、実は2016年に発売された同名のゲームソフトを原作としており、「ポケモン」のなかでもいちばんの人気キャラであるピカチュウが「探偵」となり、行方不明となった父親を探すティム少年(ジャスティス・スミス)とパートナーを組んで、謎を解いていくというミステリー仕立ての物語となっている。
主な舞台は人間とポケモンが共存して暮らすライムシティで、ここの警察署のヨシダ警部補を日本人俳優の渡辺謙が演じている。そして、ピカチュウを演じるのは、なんと「デッドプール」のライアン・レイノルズ。よくある声の出演だけではないので、最後までスクリーンからは目が離せない。
監督はロブ・レターマン。前述のようにレジェンダリー・ピクチャーズの製作だけに、冒頭からスリリングなシーンが展開、アクション・ミステリーの導入部としても、なかなかキャッチーなつくりだ。また、ティム少年が訪れるライムシティの映像も、どこか日本の繁華街(新宿か渋谷あたり)を思わせ、不思議なリアル感を出しており、「ブレード・ランナー」的な風景でもある。
筆者は、「ポケットモンスター」のゲームとはあまり馴染みがないのだが、可愛らしいピカチュウだけではなく、初めて目にするいろいろなポケモンたちで楽しませてもらった。また、ライムシティのビル群を縦横に駆けめぐるアクションシーンも、実写作品ならではの迫力があり(もちろんCGによるものだろうが)、正直なところ、案に相違して胸躍らせながら観賞した。とにかく、作品はよくできているのである。
ワールドビジネスとしてのポケモン
この作品のクオリティをコントロールしているのが、前述のようにレジェンダリー・ピクチャーズと映画化契約を結んだ「株式会社ポケモン」だ。同社は、ポケモンの原著作権者である、任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリークの3社の共同出資により、1998年に「ポケモンセンター株式会社」として設立、2000年に社名を「株式会社ポケモン」に変更、以来、ポケモンのブランドマネジメントを行なっている。
同社によれば、2017年3月の時点で、ポケモンの累計市場規模は全世界で6兆円以上。これには、ゲーム、カードゲーム、ライセンス商品、テレビアニメ、映画などが含まれている。また、日本国内と海外の累計市場規模の比率は、35%と65%。約3分の2が海外で、ポケモンは巨大なワールドビジネスとなっている。
もちろん、今回のハリウッドでの実写映画化も、その世界戦略のひとつとして位置づけられており、映画「名探偵ピカチュウ」の製作総指揮には、ポケモン代表取締役社長の石原恒和氏の名前がクレジットされている。今回の実写化作品のクオリティがしっかりしているのも、これまでポケモンをプロデュースしてきた石原氏の厳しい目が光っていたからかもしれない。
映画は、次回作をにおわせる部分もあり、例えば、マーベル・コミックやDCコミックスの映像化作品のように、ひとつの世界観で統一されたシリーズものとして発展していく可能性も思わせる。それには、誰が観ても、それに耐えうる完成度の高い映像と物語が要求される。「名探偵ピカチュウ」は、まずはその第1歩を踏み出した。
連載:シネマ未来鏡
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