大人だからこそ読むべき物語 | CEOの一冊 

各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、atama plus代表取締役の稲田大輔が、これまでの歩みを思索しながら『星の王子様』を紹介する。

子供向けの絵本─幼い頃に『星の王子さま』を読んだ方の中には、そんな感想をお持ちの方が多いかもしれません。では、今読んだらどうでしょうか。「なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」。この、物語の終盤に登場するキツネの言葉が、昔よりも心に鋭く突き刺さる方は多いのではないでしょうか。

僕が初めて本書を読んだのは小学4年生の時です。きっかけは、尊敬していた図工の先生が話をしてくれたこと。図工室にも本文に出てくる言葉がいくつも貼られていました。先生は、本書にとどまらず、一般的に当たり前と言われているような事柄に「なぜ?」を突きつめ、僕らにわかるような言葉に落とし込んで、本質から理解できるように話をしてくれました。そんな「人生の本質を学べる」図工の時間を、僕たちはみんな心待ちにしていたのです。

その授業を通じて、本書で度々触れられる「本当に大切なことは目に見えない」という価値観に強く影響を受けた僕は、人生の節目、節目に本書を読むことで、表面的なことにとらわれず、物事の本質を見ることができているかを考え直しています。

さて、僕の人生のテーマは、「自分の人生を生きる」幸せな人を増やすことです。経済大国でありながら幸福度が低いと言われる日本と、経済的に豊かでなくても「幸せだ」と言う人が多いブラジルとの違いの本質は、いったいどこにあるのか。

それを追求するべくブラジルに留学して見つけた答えのひとつは、「教育」の違いでした。例えば、ブラジルの学校では幼少期から自由度が高い上に、先生と生徒が双方向に議論を交わして考えを深めていくなど、自己表現力を育む教育が中心です。その結果、やりたいことを核に人生を組み立てる人が育っているのです。その一方、日本の教育では学力向上が何よりも重視され、やりたいことを考える前に世間が望む道を歩む人がいまだ大半です。そう、幼少期の教育がその後の人生を大きく左右するのです。

atama plusは、基礎学力の習得にかかる時間を半減させ、その分増える時間で自己表現力などの「社会でいきる力」を伸ばせるよう、AIなどのテクノロジーを活用した教育プロダクトを提供しています。この事業を通じて、学びのあり方を進化させ、「自分の人生を生きる」幸せな人を増やし、これからの社会をつくっていきたいと思っています。

本書は僕を原点回帰させてくれる、大人になってからこそ読むべき物語です。読むきっかけを与えてくれた先生に感謝するとともに、多くの方にも改めて手にしてほしいと思います。今だから見つかる宝物がきっとあるはずです。


稲田大輔(いなだ・だいすけ)◎東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、三井物産に入社。新規事業立ち上げ後、ブラジル駐在を経て、南米最大のEdTech企業の執行役員、三井物産国内教育事業統括を歴任。2017年4月、大学時代の仲間とともにatama plusを創業した。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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