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そんな時代背景のもと、近年アメリカで躍進しているのが「D2C」というビジネスモデル。D2Cとは、自社で製造した商品を、自社ECサイトなどで直接販売する仕組みだ。

「SNSの普及で、現代ではこれまで総人口が少なかったマニアックな趣味にも興味が集まりやすくなっている。中間マージンがかからず、安価で高品質な製品を届けることができるD2Cは、そうした『人口は多くないが、特定の人々がこだわる分野』と非常にマッチしています」


Takram ディレクター/ビジネスデザイナーの佐々木康裕

「人口は限られるが、特定の人々がこだわる分野」のわかりやすい例が、沼田も関わっていた土屋鞄のランドセルだ。上質な革を使ってデザインにも拘った一品は、「値段が多少高くても、子どもが6年間使うものにはこだわりたい」と考える保護者層から強い支持を集めている。

また、沼田が現在展開しているレザーブランド「objcts.io」も、バックパックの価格は5万9000円からと決して安くはない。しかし、機能面も優れデザインも美しく、素材であるレザーにもこだわったバックパックは「高くても良いものを」求める顧客の心を掴んでいる。

「困っている誰か」を幸せにするためのプロダクト

では、こうした「愛される」製品アイデアはどうしたら生まれるのか。人気を集めるD2C企業の共通点として佐々木があげるのが、「創業者の個人的なストーリー」だ。

例えば、創業3年で世界中で約100万個を売り上げたアメリカのスーツケースブランド「AWAY」。誕生のきっかけは、共同創業者ジェン・ルビオの個人的な体験にある。

ルビオは旅行中に壊れたスーツケースを買い換えようとしたが、壊れにくいスーツケースには高額品しか存在せず、機能面も納得いくものが少なかった。そんな原体験から、価格を抑えて品質の良いスーツケースがあったら良いのではないかと考え、AWAYの立ち上げに至った。


FABRIC TOKYO CEOの森雄一郎

森がFABRIC TOKYOを立ち上げた経緯も、それと似ている。腕の長さが平均よりも長く、既成のスーツだと体に合わない。だったらオーダーメイドスーツを、と思い仕立ててみたが、実店舗でテーラーと長時間やり取りをするのは、精神的にも金銭的にも敷居が高い。知り合いに尋ねても、同じ理由でオーダーメイドスーツに手を出せない人がたくさんいたのだという。

「明確なニーズがあるのに、十分なソリューションがない。だったら、自分でつくろうと。必要なのは一度の採寸のみ。以降はオンラインで注文が完結するサービスに仕上げました」

こうした事業の始め方は、マーケット全体を俯瞰してまだ埋まっていないポジションをとる従来の市場戦略とは対照的だ。

「彼らの原動力となっているのは、『目の前の個人を幸せにする』こと。マスマーケットにどうやって受けるかではなく、困っている1人を助ける方法をひたすら考える。あとはこの規模を10人、100人と増やすことでビジネスの規模を大きくするんです」(佐々木)

「助ける範囲を1人から10人に拡大する」ために必要な考え方も、根本は同じだ。沼田は現在、「objcts.io」のプロトタイプを森に貸し出している。沼田との付き合いが長い森だからこそ、開発者の価値観を理解した上で、ユーザー目線の感想を提供できるのだ。

文=野口直希 写真=ラン・グレイ

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