たとえばアップルは、「愛される会社」の筆頭に挙げられる。新製品の発売前からSNSで人々は盛り上がり、発売日には店頭に長蛇の列ができる。「アップル信者」という言葉もある。一般消費者だけでなく、感度の高いビジネスパーソンやデザイナーまでも虜にする理由は、製品のスペックもさることながら「プロダクトの美しさ」や「企業哲学への共感」といった、定量化できない部分なのではないか。
大量生産・大量消費の時代を経て、私たちは物的にも精神的にも満たされた。論理的に考えられたマーケティングからはじき出された戦略や、単なる値段やスペックだけの訴求は、必ずしもヒットを約束しない。ではこれからの時代、アップルのように企業の世界観がプロダクトやサービスに浸透し、顧客に愛されるようになるためにはどうすればよいのか。
そんなテーマで熱弁が交わされたのが、4月16日、赤坂インターシティAIRで開催されたForbes JAPANとオカムラの共同発刊『WORK MILL with Forbes JAPAN』第4号の発刊イベントだ。
本誌の特集テーマは「愛される会社」。ただ数字を追い求めるだけの企業は、人々からの羨望を集める時代ではない、企業独自のメッセージを発信し、ユーザーや従業員、近隣住民に支持される企業こそが「愛される」対象になる。そうした考えから、国内外の様々な経営者・有識者に取材を敢行した。
イベントのセッション1では、国内外のD2C(Direct to Consumer)事情に詳しいデザインコンサルファーム・Takram ディレクター/ビジネスデザイナーの佐々木康裕、土屋鞄製造所でマーケティング・コミュニケーションに携わり、現在はレザーブランド「objcts.io」を運営するZokei代表取締役の沼田雄二朗、顧客一人一人の体型やライフスタイルにあったビジネスウェアのカスタムオーダーサービス「FABRIC TOKYO」を運営するFABRIC TOKYO CEOの森雄一郎が登壇。「愛されるブランドのつくり方」と題し、議論を繰り広げた。
企業とユーザーが「友達のような関係」を築く時代
そもそも、なぜいま「愛される会社」が求められるのか。国内外の企業のコンサルティングを行う佐々木は、その最大の理由を「企業の相対的な発信力低下」だと説明する。
昔なら大衆に向けて情報を発信できるのは、テレビや新聞などマスメディアを利用できるリソースをもつ企業だけだった。しかし、現在はSNSを通じて誰もが発信者になることが可能だ。しかも日常の素朴なつぶやきや距離感が共感を集めるSNSでは、従来のCMのように企業が「上から」製品やサービスの訴求を行う手法は効果が薄い。
「企業にも、ユーザーから共感される『横から』語りかけるコミュニケーションが求められています。一時的な購買欲を喚起するのではなく、長期的に友好的な関係を築いて、どこかのタイミングでお金を払ってもらう。企業は、ユーザーにとっての『パートナー』のような存在になるべきなのではないのでしょうか」(佐々木)