ビジネス

2019.04.26

視察を「視察」で終わらせない エストニアと世界を紡ぐ政府機関の挑戦


しかしエストニアは、既にWEB上でプレゼンテーション資料を含めた様々な情報を積極的に発信している。わざわざ現地に赴いてもらい、対面でプレゼンテーションを実施する意味はどこにあるのだろうか。彼女は自信を持ってこう答える。

「人の根本的な意識を変えるには、より相互的なコミュニケーションが必要なの。私たちの任務は来訪者たちのマインドセットを変革し、エストニアと外国の企業・行政の交流を活性化させることなのよ」(リーナ)

このように、今まで世界中から多くの訪問者を一括して受け入れ、マインドセットの改革、そして実際のビジネス実現に挑む同組織だが、その活動の中で直面している課題も多くあると彼女はいう。

言語の壁は、ビジネスの発展を阻害する

まず彼女が指摘したのは『言語の壁』だ。「外国の人々とコミュニケーションを取る上で最も障壁となるのは言語だ」と説明する。

中でも多いのが、Briefing Centreでプレゼンテーションを聞いてわからないポイントがあっても、英語で質問をすることができず、腑に落ちないまま帰国してしまうケースだという。このような場合、ゲストとの間に心理的な壁が生まれ、実際にビジネスが生まれる可能性も低くなる。日本人にとっては耳が痛くなるような話かもしれない。

また、ビジネスマッチングの成果を可視化できていないのも課題だという。

冒頭で紹介したように、同組織はこれまで世界中の多くの政府機関・企業との繋がりを構築してきた。その成果もあり、同国の電子政府基盤X-Roadが、フィンランドをはじめ、アゼルバイジャン、ウクライナ、アイスランドなどで採用されるなど、エストニアの存在感は日々増している。ただし、ビジネスや行政のプロジェクトのほとんどは中長期的に進んでいくため、継続的にトラッキングすることが必要となる。

「実際に成果を出せているかを判断するためには、今後さらなるモニタリングが必要だ」とリーナは説明する。

サービスをより円滑に

このように多くの課題に直面しているBriefing Centreだが、同組織はこれらの課題に対してスピード感を持って対応策を講じているという。

例えば、ウェブ上に公開されているプレゼンテーションの多言語化や、字幕付きビデオプレゼンの制作など、エストニアに関する事前調査をより容易にするための施策をいくつも打ち出している。日本語版のプレゼンテーションも近々リリースされる予定だ。

今後は既存のプロジェクトの経過観察に力を入れると同時に、より専門性の高いプレゼンテーションを提供し、同国と海外企業との合同プロジェクトの事例を、量的・質的に増やしていくことを目指す。「問題解決の糸口をエストニアに探しに来る人々を、より円滑にサポートできるよう尽力する」とリーナは今後の展望について力強く語ってくれた。

世界中の行政・企業との接点を、政府機関が一括して対応するエストニア。プレゼンテーションを提供するのみならず、マインドセットの変革、そしてエストニア経済の国際化に挑んでいる彼女たちの姿は、とても眩しかった。

連載:日本人が知らないエストニアのいま
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文=齋藤アレックス剛太 取材協力=細井 響

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