ビジネス

2019.04.26

視察を「視察」で終わらせない エストニアと世界を紡ぐ政府機関の挑戦

政府機関が海外からの視察を一括で受け入れ、最新鋭のデジタルディスプレイとVRを活用して自国のデジタル戦略をプレゼンテーション。更にはローカルのスタートアップと海外企業を繋いで、グローバルな経済交流を活性化させる──。

これは決して未来の話ではなく、バルト三国の一角・エストニアで現実に起こっている話だ。今回は、世界中の視察団を受け入れている同国で、グローバルなPR活動を続ける政府機関を取材した。

e-Estoniaの玄関口、Briefing Centre

タリン空港から徒歩数分、エストニアのIT企業が集まるウレミステ地区に、エストニアフォントに彩られた近未来的な建物が佇んでいる。最先端のデジタルデバイスに囲まれたこの施設こそが、エストニアの政府機関・エンタープライズエストニアが運営するe-Estonia Briefing Centre(イーエストニア ブリーフィング センター)だ。

エストニア企業と外国企業とのビジネスマッチングを手がけることを目的に活動している同施設は、主に外国からの来訪者に対して、同国の電子化政策(e-Estonia)の概要を、約1時間の内容でプレゼンテーションしている。元々は民間施設として2009年にICT Demo Centerという名で設立され、その後2014年にエンタープライズエストニアが運営を引き継ぎ。2019年2月に新しいオフィスを構えた。

総勢10名で構成される同施設を率いるのは、マネージングディレクターのリーナ。視察団に対してプレゼンテーションを行うスピーカーのほか、プロジェクトマネージャー、マーケティング、PRなどの担当者を抱えている。

これまでに、世界各国から約5万2000人、4000もの視察団を受け入れてきたBriefing Centre。その中には甘利元経済産業大臣をはじめとする、日本政府、日系企業関係者も多く含まれている。2017年に688団体、2018年に824団体と年々その数は増加しており、2019年も4月時点で既に172団体を受け入れた。

このように、エストニアと海外企業を繋ぐ「タッチポイント」とも言える同施設。しかし、政府機関が視察に対応する意義はどこにあるのだろうか。

ミッションは「マインドセットの変革」


Briefing CenterのLiina(リーナ)

「この組織の活動方針には、かねてからの課題意識が強く反映されているの」と、説明を始めたのはリーナ。

もともと、先進的な電子国家政策で世界中から注目を浴びていた同国は、海外からの視察を、国内のエグゼクティブクラスの人物たちが対応していた。しかし、同国の注目度が高まるに伴って海外視察も激増し、要職につく人物たちが本来の業務に集中できていない時代があった。

「行政や企業のトップが、外国からのゲストに対して、エストニアの基本的なことを説明することに時間や労力を費やしてしまうのは良い状態とは言えないわ。彼ら、彼女らは本質的な業務に集中するべきなの」と彼女は続ける。そこで、白羽の矢が立ったのがBriefing Centerだ。

同施設が一元的にエストニアのプレゼンテーションを担うことで、民間・行政のトップクラスが基本的な情報の説明に時間が割く必要がなくなる。そして、基礎的な概要を理解したトップレベルたちと、より先進的で重要度の高いトピックに、議論を集中させることができる、というわけだ。Briefing Centerという名前も「エストニア視察における事前説明の場」というニュアンスで名付けられたという。
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文=齋藤アレックス剛太 取材協力=細井 響

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