イノベーション・エコシステムの内側

マレーシアにあるグラブのオフィス(Hafiz Johari / Shutterstock.com)

1人当たりのGDPが、ASEAN諸国でシンガポール、ブルネイに続き第3位、経済成長著しいマレーシアを、4月の初めに訪問した。

クアラルンプール国際空港に着いて、すぐに目にしたのが、今を時めく配車アプリ運営会社「グラブ(Grab)」の広告だった。エアポートタクシーの受付の前にも、壁一面にグラブのポスターが貼られており、マレーシアを代表する企業という印象を受けた。

クアラルンプール市内のホテルに入り、夜、散歩に出ると、光り輝くペトロナスツインタワーが現れた。その美しく、ユニークな形をしたツインタワーは、一度実物を見たら心を鷲掴みされるほど印象的だ。



このタワーを施工したのは、タワー1が東証一部上場企業である中堅ゼネコンの間組(ハザマ)、タワー2が韓国のサムソン物産だ。マレーシアの国立石油会社ペトロナスが建設し、1998年に88階立て、452メートルで完成した。まさにオールドエコノミーを支え続けた石油ビジネスの象徴とも言える建物だが、今、この国から生まれているのが、時代の最先端を行くライドシェアビジネスだ。

ウーバーから東南アジアの事業を引き継ぐ

マレーシアを代表するユニコーン企業となったグラブは、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のMBAに在籍していたアンソニー・タン(Anthony Tan)氏が、2012年に同窓生Tan Hooi Ling氏と考案。HBSのNew Venture Competitionのピッチコンテストで2位となり、ハーバード大学から出資を受け、ここクアラルンプールで創業した。

タン氏は、フォーブスのランキングでマレーシア第28位の富豪であるTan Heng Chew氏(日産自動車販売会社の経営者一族)の息子であり、彼自身も、現在はシンガポール在住であるが、マレーシアで第38位の富豪だ。

タン氏は2013年、シンガポールとタイでグラブのサービスを開始。2014年からはシンガポールに本社を移し、4月にVertex Venture Holdingsから1000万ドル(約11億円)の出資をシリーズAで受けると、5月にはシリコンバレーのVCであるGGV Capitalからも1500万ドルの出資をシリーズBで受けた。日本円にして10億円以上の出資をふた月連続で受けるというスピード感だ。

さらに、ベトナムにあったバイクのライドシェアサービスをローンチし、同年に世界中から追加投資を受ける。12月にはソフトバンクも2億5000万ドルを出資。ソフトバンクは、2016年9月にもシンジケート(投資連合)をつくり、7億5000万ドルを追加出資し、10月にはソフトバンクの投資部門出身のMing Maa氏が、グラブのプレジデントに就任している。

さらに、2017年7月には、シリーズGで、ソフトバンクや滴滴出行、アリババから25億ドルを出資。同年8月には、豊田通商からも出資(額は非公開だが数億円規模)を受け、トヨタ自動車との協業を開始。グラブの保有するレンタカー車両100台に通信型ドライブレコーダーを提供し、車両からデータを収集、分析し、新サービスの開発を行うとしている。2018年6月にはトヨタ自動車からも、10億ドルの出資を受け、役員も派遣されている。

2018年3月、グラブは、ライドシェア世界最大の企業であるウーバーの東南アジア事業を獲得。東南アジア8カ国(カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、217都市の事業をウーバーから引き継いだ。その際、グラブは、ウーバーに対して、27.5%の株式を譲渡した。

文=森若幸次郎

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