「企業がどの程度、誠実に内部告発に対応したか」をテーマにした研究によると、内部告発に真剣に対応した企業は、訴訟が7%少なく、訴えられた際の支払額が20%少ない。こうした結果について、「寛大な行為というよりも、洗練された自己利益ということだ」と、米最大の投資信託運用会社のバンガード・グループの創業者ジョン・ボーグル(19年1月16日死去)は語る。
ウォール街における最大級のディスラプター(破壊者)でもあった彼は現在、母校のブレア・アカデミーとプリンストン大学に奨学金を提供し、学生への指導もしている。
「今の学生は、よりグローバルな視野を持ち、あまり物質的な豊かさにこだわらない」とボーグル。つまり、この企業による自己規制の傾向がなくなることはない。
拡大するインパクト投資
実際、投資家は依然として、疑わしい企業文化の長期的なマイナス面について過小評価しているかもしれない。独アイヒシュテット・カトリック大学のサイモン・グロスナーの調査によると、「環境問題、社会問題、ガバナンス問題で大きく取り上げられた米国株は、大きく値下がりをしたとしても買いではない」。09年から16年にかけて、問題のある株はベンチマークを年間3.5%下回っている。
グローバル・インパクト・インベスティング・ネットワークの調査によれば、社会的な課題解決に取り組む企業に投資するインパクトファンドに集まった世界中の資産は、16年から17年にかけて50%増加し、2280億ドルになった。さらに、同分野は、17兆ドルにもなるとされる巨大な資産が、古い世代からミレニアル世代に移転されるに伴い、爆発的に膨らむ可能性がある。
伝統的な“企業乗っ取り屋”も、インパクト投資に関与しつつある。アクティビスト活動で悪名高いヘッジファンドのジャナ・パートナーズは最近、ソーシャル・インパクト・ファンドを組成。その最初の戦いは、アップルに対して、「子どもにiPhoneを与えた親が、もっと親としてコントロールできるように圧力をかけること」だった。
同社パートナーのチャールズ・ペナーは「政府の規制が必要なものもありますが、当ファンドの立場は、企業がそれを自ら行うことができれば、ずっと望ましいというものです」と話す。
アダム・スミスは『道徳感情論』で、「人はいかに自分勝手と思われていようと、他人の幸せを願うことに関心を持つ性質があるのは明らかである」と述べた。そして彼は続けて、思慮深い人は、自らの行為を「公明正大な第三者が見たらどうか」と考えることで、自分勝手な感情を抑制すべきであると書いている。
スミスのその美学こそ、「自らの経済的利益を追求することで、社会の利益にも貢献することになる」という『国富論』の倫理的基礎となり、現代の企業経営にも強く影響を及ぼしている。