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──フリーになって1年が過ぎました。当時の感覚は戻ってきましたか。


NHKを辞めてすぐに青森から茨城まで、10日間かけて車で回りました。そのとき、「ああ、昔はこうして人の話を聞くのが好きだったな」と思い出しました。

取材旅を始めた当初は、なんの肩書きもない自分に戸惑いを覚えました。「あ、NHKです。ちょっといいですか〜」とは、もう言えない。「すいません、有働です」というのも違う。「震災から8年を迎えるにあたり、皆さんにお話を聞いてるんですけど……」と声をかけても無視されたり、忙しいと言われたり。そこで痛感しました。NHK時代は当たり前のように、「取材者なので」という姿勢で臨んでいたなと。

一個人として、相手と同じ目線に降りないとダメだ。そう気づいてから、自分が身につけた鎧を一つずつ外していって。4日目にようやく「失礼しまーす。ご迷惑だと思うんですけど、私、最近NHK辞めちゃって。フリーターだから何の得にもならないかもしれませんが、勉強させてもらえますか?」と言いながら、現地の人たちと話ができるようになりました。

その後は行く先々で、他愛のない会話の端々に感じられる震災の傷みや悲しみをひたすら聞いて回りました。効率で言うと悪いし、本当に聞きたいことになかなか到達できないこともある。でも、この面倒や手間をかけてこそ取材だと改めて実感しました。本当に当たり前のことなんですけどね。どこかで先入観があったり、効率的に取材をしたいと持っていたんでしょうね。

──自分の殻を打ち破るには、相当なエネルギーを要します。それでも有働さんが、組織や肩書きを手放して挑戦を続ける理由は。

挑戦しないと、自分がどんどん凝り固まってしまうという危機感からです。そして、「本当はこうだよね」と伝えることをし続けないと、無責任な世の中を無責任に作ってしまうという怖さもあります。

私は今、50歳です。この歳になると、築き上げてきた城を壊して自分を解放するほうが難しい。それでもようやく、えいやっとブルドーザーを入れて更地を作った。だから守りに入ってはいけない。自分を枠に押し込めるようになったら、この仕事を辞めるべきだと思っています。

【後編】嘘はつかない、守りに入らない。『あさイチ』で学んだ枠の破り方


有働由美子(うどう・ゆみこ)◎1969年、鹿児島県生まれ。91年にNHKに入局し、ニュース番組やスポーツ番組などを担当。紅白歌合戦の司会も務めた。2007年から3年間、ニューヨーク特派員として米国に勤務。10年に『あさイチ』のキャスターに就任。18年3月にNHKを退局し、同10月から日本テレビ系『news zero』でメインキャスターを務める。

構成=瀬戸久美子 イラスト=Kyle Hilton 撮影=ヤン・ブース

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