ニューヨーク在住ジャーナリスト / NYC-based Journalist


──オフィス設計のせいで、仕事に対する「心理的オーナーシップ(当事者意識)」が阻害されているそうですね。経営者と雇用者の理想的な関係とは?

21世紀のオフィス設計について専門家に尋ねたところ、(一つ一つのデスクを仕切るパーティションのない)オープンスペースのオフィス空間の普及は、企業がコストを抑え、従業員を監視するためだという。だが、監視されると、多大なストレスがたまる。企業が従業員を信頼していないのは由々しき事態だ。

経営者が雇用者と理想的な関係を築くには、言うまでもなく、信頼と誠実さが非常に大切だ。従業員に心理的トリックを仕掛けたり、行動を偵察したりせず、信頼し、尊重する。だが、こうしたものが失われてしまったため、上司と部下の足の引っ張り合いや密告の応酬などが絶えない。雇用主は従業員を信頼し、彼らが思い思いのやり方で仕事に意義を見いだせるよう努めるべきだ。

──日本には、組織への帰属意識や上下関係を重んじる文化があります。昨今、その弊害を指摘する声もありますが。

著書で挙げた西海岸のビデオゲーム開発業者、バルブ・コーポレーションは階層のフラット化を目指したが、問題がいくつも起こった。上司がおらず、各自が自分の上司という会社もあるが、同僚の間で不信感が生まれる。経験や功績が豊富な人に多くの権限をゆだねる階層制度は、各人の違いを評価して互いを尊重し合うかぎりにおいては機能する。

帰属意識についても、雇用主が従業員を尊重し、彼らが仕事で自己表現し、意義を見いだせるような環境を提供していれば、問題はない。だが、日本が西洋化し、失業や職場での地位低下が増えるようなことがあれば、会社ではなく、スキルセットや自分の関心を深めることに自らのアイデンティティーを置き、他の会社に移れるようにすべきだ。会社と一体化しすぎると、非常に危険だ。

──仕事自体を意義あるものと考えるのではなく、仕事に自分なりの意義を見いだすことが大切だと、先ほど述べられました。新著で、今後、そうしたDIY(ドゥ・イット・ユアセルフ=自分でやる)的な働き方が増えると書かれています。

働き方も十人十色だ。特に日本ではそうだろうが、職場を家族のように考え、同僚などとの親近感を大切にする人もいる。一方、プログラミングの仕事に就いている人たちは職人気質を大切にし、独立独歩のやり方で仕事を完遂することに誇りを感じるだろう。

雇用主は、人は皆違うことを理解し、職場での多様性を実現せねばならない。従業員の要望に応え、各自がDIY的に仕事に意義を見いだせるよう支援すべきだ。「あなたの仕事には意義がある」「会社が成功すれば皆が幸せになるのだから、すべてを会社に捧げて猛烈に働け」などという理屈は通用しない。

従業員は経営者ではないのだから、会社の成功は彼らの幸せに直結しない。


エレン・ラッペル=シェル◎アトランティック・マンスリー誌記者。ニューヨークタイムズ・マガジン、ワシントン・ポスト紙などにも寄稿。ボストン大学ジャーナリズム学科教授。新著『The Job』では数多くの心理学者、社会学者らをはじめ、多くの職業の個人に取材し、現在における「仕事」とは何かを丹念に浮かび上がらせている。

インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=マルチン・ウォルスキー 構成=岩坪文子

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