家から車で3分、歩いて15分の距離にユーチューブの本社ビルがある。引っ越してきた当時は、まだアパレルブランド「ギャップ」のビルだった。ギャップが急成長を遂げている時で、華やいだ雰囲気を感じさせていた。当時の商業ビルとしては珍しく、環境にやさしいものだった。屋上には芝生が敷き詰められ、花も植えられて、このビルのデザインだけでも、何度もメディアで取り上げられていた。
その後、時代は少しづつ変わりアメリカはドットコムバブルに沸き立ち、そのブームが終演を迎えるとペイパルに勤めていた3人の若者がユーチューブを起業した。彼らのオフィスは隣町のサンマテオにある日本レストランとピザショップがある建物の2階から始まった。
私がユーチューブを知るようになったのは、2006年ごろ。日本にいる母から「サンブルーノがニュースにでていたわよ」と連絡があって、息子と一緒にどこにあるのか見に行った。当時のビルは、今の本社ビルの通りを越えた、小さなオフィスが並ぶ一角にあった。
2005年、売上が低迷するギャップから、急成長を遂げたユーチューブがこのビルを買い占めた。その後、2006年にグーグルがユーチューブを買収し、このあたりのビルも次々と買い占めていった。今でも、いくつかの土地を買い広げ、グーグルキャンパスが作られている。
サンブルーノといえば、今ではすっかり、ユーチューブの街として定着している。ここでは約2000人の社員が働いている。今までは、ラッシュアワーなどとは無関係だった郊外の静かな街が、午後4時過ぎには車の渋滞が始まり、本社前には大型バス2台が他のキャンパスへの移動手段としていつも待機している。
そんな、街の変化が少しづつ私たちの生活をも変え始めた。
屋上に芝生があるユーチューブ本社ビル(Anadolu Agency/GETTY IMAGES)
IPOが一晩にして1万人以上の億万長者を生む
ここ最近、ピンタレストがIPOを実施し、ウーバーもIPO間近だ。スラック、エアビーアンドビーといった企業も近い将来IPOを実施するという。ウーバーの競合リフトはいち早くIPOを実現した。
20年前、アマゾンの株を5000ドル(当時のレートで約56万円)で買って保有し続けた人は、今や167万ドル(約1億8000万円)の価値になった。
現代のアメリカの富豪は、一月いくら稼いで金持ちになるといった類のものではない。スタートアップがIPOを実施した時、その株をどう扱うかによって、人種、年齢、経験に関係なく平等に富豪への道が開かれるという新しい時代になっている。
上記5社の企業評価額の合計は1900億ドル(約21兆円)を上回ると言われている。
ウーバーがIPOを実施すると、評価額は1200億ドル(約13兆5000億円)となり、他のIPOになる会社と合わせると、1万人近くの億万長者が一晩にして生まれるという。
そうなると、この地域一体にもまたもや変化が起きる。
私の家の通りもユーチューブに勤める若い家族が住み始め、今まで住んでいた老人たちは家を売って、老人ホームへ引っ越していった。現在も、私の両隣や通りの向こう合わせて5軒の家が近いうちに売りに出るという。若くて稼げる人たちが、どんどん家を買い、収入源が乏しい人は家を去る現象が起きている。