「海の中」で熟成させた特別なシャンパーニュ

「アビス」のボトル。海中での熟成の様子を伝えるため、そのままの状態で販売されている。


アビスを熟成させる海は、ジェスタン氏の故郷、ブルターニュ地方の沿岸に浮かぶウェサン(Ouessant)という小さい島の付近だ。水深60メートルで、瓶には6気圧がかかる。

氏によると、ここは、潮の流れがぶつかり合い渦巻きがができるところで、「大きなエネルギーが生じる」場所。これにより、ワインのエネルギー量が増加されるのではないかと考え、当初、実験的に、2012年ヴィンテージの48本を海底で熟成させた。結果として、彼の指標によると、セラーで熟成させたものより、エネルギー量が30%増したと言う。

ジェスタン氏は、高い醸造技術を持つ理知的な醸造家であるが、独自のアイデアと哲学に基づいてワイン造りに取り組んでおり、話を聞いていると興味が尽きない。彼の手がけるシャンパーニュからは、確かに生命力やエネルギーを感じる。このアビスも、乾燥アプリコット、リンゴ、ブリオッシュやヘーゼルナッツといったリッチで複雑な味わいに加えて、力強いパワーを秘めている。

自然や環境に敬意を払い、土地やブドウの個性を尊重し、自身の理念に基づいたワイン造りを実践する。例えば、アルコール発酵は野生酵母により、ゆっくりと発酵が進む。その後、シャンパーニュの泡を作る二次発酵のための瓶詰めは、ワインの個性を引き出すため、通常のメゾンより遅い7月下旬におこなう。醸造の容器も、ステンレス槽、オーク樽、アンフォラ(粘土)、金を内面に貼ったタンクなど様々だ。


ルクレール・ブリアン(Leclerc Briant)のセラーには様々な醸造・熟成のための容器が並ぶ

ルクレール・ブリアンは、再始動後、徐々に畑を買い増し、商品のラインナップや生産量も増やす予定だ。ジェスタン氏には世界中にコアなファンがついていて、このルクレール・ブリアンもシャンパーニュ愛好家が探し求めるワインとして、人気が上昇している。

シャンパーニュ地方の新しい観光スポット

シャンパーニュ地方は、パリから近い観光地として人気が高く、国内外から多くの観光客が訪れる。ルクレール・ブリアンは、ワインツーリズムにも力を入れている。

ロワイヤル・シャンパーニュ(Royal Champagne)のテラスからの眺め

拠点となるエペルネの街には、目抜き通りに、「25 bis」というワインショップと宿泊施設を開設。ここで試飲もできる。またエペルネの郊外には、「ロワイヤル・シャンパーニュ」というスパやレストランを備えた5つ星ホテルを全面改装してオープンし、シャンパーニュ地方の新しいラグジュアリーなスポットとして注目を集めている。シャンパーニュも260種類が取り揃えられている。

小高い丘に立地し、テラスからはブドウ畑や村々が一面に見渡せる。アペリティフや食事でも立ち寄ってみたい場所だ。


エルヴェ・ジェスタン氏(左)とGMのフレデリック・ゼメット(Frederic Zeimett)氏(右)

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文、写真=島 悠里

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