ほぼ唯一の黒人である私に対して、学生達が差別的な目線を向けていると感じたこともありました。けれど、卒業する頃には、みんなと親しくなっていました。お互い成長した結果でしょう。今思うと大変な苦労をしたのは最初だけでしたね。
大学卒業後は醸造メーカーに就職しました。そこで13年間務め、在職中に同僚の助けも借りながら2013年に自身のワインブランドASLINAを立ち上げました。独立することができたのは2016年でした。
しかし、南アフリカでは「ワインは白人のもの」という考えが強く、黒人女性が作るワインはすぐには受け入れられませんでした。南アフリカのワイン造りの歴史は300年ほどありますが、それはヨーロッパを中心に白人を中心に広まった文化です。今も黒人がワインを飲む習慣はほとんどありません。
需要も少なく、国内で流通させる方法も充実していなかったので、広めるにはとても難しい環境でした。悩んだ末、私はまず海外にASLINAを広めていくことに注力しました。南アフリカの「黒人女性初のワイン」と宣伝することでより注目を集めたのです。
後にASLINAは海外メディアにも取り上げられ、徐々に知名度を上げていくことに成功しました。今では、南アフリカでも私のワインを置きたいという小売店やレストランが増えてきました。去年の4月に国内大手小売店チェーンが融資を決めてくれたこともあり、ワインの生産量を1万7000本に増やすことができました。
2014年はたった1800本、今はその約10倍になります。
──もともと興味があったわけではないワインの道を、途中で諦めずにここまで来ることできたのはなぜでしょう。
私には諦めるという選択肢はありませんでした。学生時代には辛い思いもしましたが、そこで投げ出して小さな故郷に帰っても私には何も残らない。そう自分に言い聞かせました。それでも辛い時は祖母の姿を思い浮かべてひたすら学業に打ち込みました。
祖母は学校教育を十分に受けていませんでしたが、常に行動で私にあるべき姿を示してくれた。彼女は常にポジティブな気持ちでいる事を教えてくれたのです。いつだって目の前のことに集中して、どんな困難も乗り越えた女性でした。
そんな祖母の名前に由来する「ASLINA」を初めて手にした時の感触は忘れられません。