調査からはさらに大きな発見もあった。感情を装うことが必要だと答えた51%の人は、仕事を好きではない割合が他より32%高かった。言い換えると、仕事で感情を偽らなくても良い人は、仕事を好きである割合が32%高いということだ。また、仕事に対するネガティブな感情もはるかに少ない。仕事で自分を偽る必要がない人は、仕事が嫌いである割合が59%少なかった。
職場で感情を偽らなければならず自分らしくなれないと感じる状態は、非常に疲れるものとなり得る。記者会見の直後、米スポーツ専門チャンネルESPNのレイチェル・ニコルズから「とても幸せそうですね」と言われたジョンソンは、「幸せだ」と答えた。
マジック・ジョンソンは、共感力や人を引き付ける力があり、情緒も豊かだ。しかし、ロサンゼルス・レーカーズの社長になるには、感情や共感を抑え、距離を保って計算高い振舞いをする必要があった。リーダーシップIQの調査からは、こうした状況は非常につらいものになり得ることが示されている。
また別の研究からは、特定の仕事において、高いEQと仕事のパフォーマンスの低さが相関関係にあることが示された。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームは2010年、EQと仕事のパフォーマンスの関連性を示した全調査を対象に徹底的なメタ分析を実施。191種の仕事に関する476件の調査結果を分析した結果、EQが仕事でのパフォーマンスに良い影響を与えるのか、それとも悪い影響を与えるのかを決める要素として、「感情労働」と呼ばれるものが関わっていることが分かった。
感情労働とは、目標達成のために特定の感情を制御したり示したりしなければならないレベルを示すものだ。仮に、自分が他者の感情を理解して同じ気持ちを持てるような共感力が非常に高い人だったとしよう。これは素晴らしい資質に思えるだろう。だがそんなあなたが、共感を表に出さないことや、従業員の解雇、秘密の厳守が求められる仕事に就いているとしたらどうなるか想像してみよう。仕事では自分が自然に抱く共感を隠すよう求められる一方で、仕事以外では共感力が足りないと批判される。これはひどい状況だ。
皮肉なことに、こうした状況では共感力やEQが低い人の方が良い結果を出すだろうということが、分析により示された。無表情でいること、動じないこと、批判に耐えることを求められる仕事では、共感力が低いことは実は非常に良いことかもしれないからだ。
ここで、経営不振に陥った企業を解雇などの手段で立て直すために採用された役員が置かれる状況を考えてみよう。これはつらい仕事だ。リストラの影響を受ける従業員すべてと深い感情的なつながりを感じるような人であれば、感情的・身体的に疲れ果て、一日中苦しみにさいなまれることだろう。
マジック・ジョンソンの辞任によってスポーツ関係者の多くは衝撃を受けたが、私は違った。また、職場で感情を偽らることがどれほどつらいかを知っている人も、驚いてはいないだろう。