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2019.04.29

メディアが酷評。クリントン夫妻をモデルにした舞台劇

Photo by Lester Cohen/Getty Images

あろうことか、ビル・クリントンとヒラリー・クリントンをモデルとした「夫婦劇」がつくられ、ニューヨークのブロードウェイの名門ゴールデンシアターで、18日、初舞台となった。

奇しくも、いわゆるロシアゲート疑惑の捜査にあたった特別検察官が、「トランプ大統領がロシアと共謀してヒラリー・クリントンを選挙で落選させようとした事実はない」という400頁の報告書を出した日となり、完全引退をしたヒラリーがいまだに毎日メディアで語られる、アメリカの複雑な現状を印象づけている。

大統領や大統領候補が映画やドラマになることは日常茶飯事だが、ブロードウェイの劇場で舞台にかかることはとても珍しい。ヒラリーはニューヨーク州の上院議員であった時代もあり、同地のシアター街はおおむねヒラリー支持層が厚いので、もしかしたら2020年の大統領選挙に、再びヒラリーを3度目の正直で引っ張り出すための布石だったのかと勘繰りたくもなる。

しかも、「ヒラリーとクリントン(Hillary and Clinton )」というタイトルに添えて、わざわざ「いちおうコメディ」という意味深なサブタイトルもつけている。選挙に出る者は、「選挙前にはできるだけ多くのコメディ番組に出て」大衆の人気を得て当選を目指し、「選挙中の戦いをドキュメンタリーで撮って」当選後に流して、その後の支持率を買うというのが定番だから、「コメディ」にヒラリーが登場するとなれば、アメリカ人なら誰もが気になる。

脚本は素晴らしいが、ミスキャストが残念

言わずもがな、本人が出ているわけではないが、この舞台の役者はベテラン勢で固められ、とても気合が入っている。本人役の女優、ローリー・メトカーフは業界で最高の栄誉のトニー賞を2度受賞しているし、テレビドラマでもエミー賞を3回受賞している。ビル役には映画もテレビドラマも舞台もやるジョン・リスゴー(エミー賞6回、トニー賞2回)が抜擢されている。

さっそく、各紙は批評を載せたが、厳しいコメントが多い。シカゴ・トリビューンは「脚本は素晴らしいが、ミスキャストが残念」としているし、ニューヨーク・タイムズは「話を引っ張りすぎ」と批判している。また、設定は2016年ではなく、2008年の大統領選挙を舞台にしているが、これも適切であったかと、あまり評価されていない。

なかでもウォール・ストリート・ジャーナルは紙面の半分を使って大きく採り上げ、酷評しているが、その指摘が興味深い。それは、「どこまで役者は現実の(しかもまだ生存している)有名人をモノマネすべきだろう」という点だ。

評者のテリー・ティーチアウトは、舞台監督が、敢えてモノマネをさせなかったという方針を踏まえ、また役者の演技力を高く評価しながらも、あまりに実在人物と乖離しすぎていて、そもそも何の話だかわからせなくしていると厳しい。とくに2人のクリントンの会話は、どれだけ想像を膨らませても、絶対にこんなことはあの2人は語らないだろうと思わせた点で「引いてしまった」と断言する。

ブロードウェイが政治的目的で舞台をつくるとは思いがたいので、いったんヒラリー再出馬説は忘れるとすると、エンターテインメントが、実在する大統領をどこまで似せるかという問題は、とても深いと思わせた。
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