昆虫食が世界を救う? 360種の昆虫を食した日本人がラオスで研究を続ける理由

(撮影=佐伯真二郎)


日本人が「昆虫食」を受け入れるようになる可能性

最後に、日本での昆虫食の現状を聞いてみた。世界の人口が増え続ける中で、カロリーベースでの食料自給率が40%未満の日本は、このまま経済状況が落ち込めば必要十分量の食糧の輸入すらも難しくなる恐れもある。

将来、国内の高級農家が生産した食肉のほとんどが輸出され、日本人は東南アジアから輸入した安価な昆虫食で動物性タンパク質を補うといった可能性は決してゼロではない。そんな中、日本での昆虫食の普及は、どの程度現実味を帯びているのか。

「先日販売が始まった『コオロギが練りこまれたうどん』やプロテインバーなど、昆虫を取り入れた加工食品は少しずつ増えています。

しかし、全体としてはまだまだ嫌悪感が優勢でしょう。例えば2014年、カップ焼きそばに虫が混入した事件が起きた時には、全工場で生産が自粛され、販売も休止されました。

一部では昔から虫を食べる文化もあるとはいえ、現在の日本人にとって『食』と『昆虫』は大きな隔たりがあるのではないでしょうか」

すでに食用コオロギのための大きな養殖場が存在するヨーロッパやカナダに比べて、昆虫食が身近だとは言い難い日本。では、どうすれば「昆虫を食べること」への抵抗を減らすことができるのか。

近年はこうした題材を扱うアーティストも少なくなく、佐伯も彼らに昆虫食の実態を教えるなどの協力を図っているという。しかし、そんな佐伯から返ってきたのは意外な答えだった。

「答えになっていないかもしれませんが、無理に昆虫食への抵抗感をなくす必要はないと思います、『日本人が昆虫を食べない理由』を考えても得るものは少ないのではないでしょうか」

こうした考えは、佐伯が昆虫食に興味をもち、ラオスで過ごす中で自然に芽生えてきたのだそうだ。

「ラオス人も全ての昆虫を食べるわけではなく、あくまで伝統的に安全だと知られているものだけを口にします。実際、僕がフンコロガシを食べようとしたら『そんな汚い虫を食べるの?』といわれたこともあります。これって、僕らがヨモギを食べる一方で、知らない雑草を食べないのと全く同じですよね。

結局、こうした境界を決めるのは慣れの問題でしかない気がします。いまは毛嫌いしている人も、昆虫食がスーパーに並んで周りの人が食べるようになれば、自然に口にするようになるのでは。健康のために誰もが無理に昆虫食を食べる必要はないですが、こうした選択肢があることは多くの人に知ってほしいですね」

文=野口直希

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