異性愛規範を超えて、女が自分の本当の欲望に気づく時

左からフランソワ・オゾン監督、アナイス・ドゥ・ムースティエ、ロマン・デュリス(Tommaso Boddi/by Getty Images)

左からフランソワ・オゾン監督、アナイス・ドゥ・ムースティエ、ロマン・デュリス(Tommaso Boddi/by Getty Images)

アメリカで4月12日、トランスジェンダーの人々の入隊を制限(原則として禁止)する新たな措置が発効した。米国防総省は、性別適合手術を受けた人やホルモン投与などを受けているトランスジェンダーの入隊を禁じ、出生時の性別での入隊を義務づけるとしている。
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この措置は、トランプ大統領が2017年にツイッターで発表して以来大きな批判を呼び、法廷闘争に発展していたが、連邦最高裁判所は今年1月、入隊制限の発効を認めていた。

軍への入隊には健康状態をはじめとしてさまざまな適性検査がなされるが、自己のジェンダーに生活や身体を合わせて「男」あるいは「女」として生きている人々をそこからあらかじめ排除することは、差別や職業選択の自由の侵害であるばかりではなく、為政者のジェンダー概念への無理解を示すものとなるだろう。

ジェンダーとセクシュアリティは、人のアイデンティティに刻み込まれている。そこから生まれる欲望に従って生きることは、自分の望む職業や環境を選ぶのと同じく、その人の生き甲斐や幸せと直結している。同性愛者への理解がかなり進んだと言われる現在、トランスジェンダーへのそれはまだ立ち後れているようだ。
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トランジェンダーを主人公とした映画は最近増えてきているが、今回は、性自認が男から女へと変わる男性と、「彼女」に寄り添うことで自らの真の欲望に気づいていく女性の関係性をスリリングに描いた『彼は秘密の女ともだち』(フランソワ・オゾン監督、2014)を取り上げよう。

妻が死に、女装癖が復活

冒頭は、ウエディングドレスを着せられメイクを施される若い女の映像。祝福の場面が続くかと思いきや、櫃に横たわった俯瞰のシーンから彼女の葬儀とわかる。

27歳で病死したローラを偲ぶスピーチをしているのは、親友クレール(アナイス・ドゥ・ムースティエ)。金髪の美少女ローラと7歳で出会って以来、離れ難い仲となったクレールは、結婚後も家族ぐるみで付き合い、ローラの娘リュシーの名付け親にもなっていた。

長年の大親友を失ってうつ状態になっているクレールに、夫のジルは、ローラの夫ダヴィッド(ロマン・デュリス)とまだ赤ん坊のリュシーを訪ねてみてはと提案。だがその家でクレールは、女装して娘にミルクを飲ませるダヴィッドの姿を目撃してしまう。「ローラも知っていた女装癖が、彼女の死後復活した。リュシーには「母親」が必要だから」と弁解するダヴィッド。

秘密を共有してくれるよう頼まれて混乱したまま帰宅したクレールは、ダヴィッドとの関係をジルに疑われないよう、彼の携帯の登録名を「ヴィルジニア」という女性名に変更する。
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文=大野 左紀子

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