「違い」を受け入れて享受する、それこそまさに「旅」の喜び

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「違い」を受け入れ、享受する、実は、それこそがまさに「旅」の喜びだと思う。交渉が主な目的のビジネス出張も、自他の違いを享受し合えるような売り込み方や交渉術を繰り広げられれば、きっと愉しいものになるのだろう。

マドリッドにあるスペイン人がオーナーシェフの人気の日本食レストランにプロモーションに行った際にも、貴重な「異国体験」をした。まだ30代のオーナーシェフがつくってくれた飛驒牛の鮨を食べ、その独創性と美味しさに驚嘆したのだが、聞くと、彼には小さな頃から日本や日本食への憧れがあったのだと言う。

彼は、懐石料理を学ぶため京都で修行した後、国に戻り、タパスとしてのスペイン料理と日本の懐石、それぞれの個性を活かし合うオリジナルな「味」を創り出したいと試行錯誤を重ねた。その味は星付きレストランにあるような奇抜さや独創性を全面に出すものではないが、まさに自国の固有性と異国の文化を認め合う、多様性が生み出した調和の味だと感じた。

固有性を認めながら、多様性を受け入ることに慣れている国の人々にとっては、「親切な行為」のありようも、日本とは大きく違うことが多々ある。

私は日本で、年配の方が「つまらないものですが、どうぞ」と言ってお土産等を渡す謙遜の言葉は、海外の人に向けては使わないで欲しいといつも言う。渡す側の真意はそうではないのに、それをそのまま訳されてしまうと、「つまらない=価値がない」と思っているものをわざわざ他者へのお土産にするのかと、思われてしまうからだ。

値段やボリュームにかかわらず(しかし時として、アジアの国の方へのお土産には、ボリューム感が重要なことがあるので要注意だが)、大切なのは、手渡す「個人」が、そのお土産を気に入っており、好きだからこそ、その想いを「情報」として品物に添えて差し上げると感じてもらうことが大切だ。

各国のトップ同士の会合の際に行われる儀礼的なお土産交換などでも、相手の趣味趣向、家族の構成や嗜好なども考慮したうえで、その時々でアピールしたい一番適切な品を選択する。「親切」なうえに「考慮」が必要なお土産選びは、「個性」を尊重しながら、こちらの一方的な押しつけにならないように、多様な視点での配慮が必要ということだ。

見直してこそ、再発見できる

最近は、日本でも「ダイバーシティ(Diversity)」という言葉が当たり前に語られるようになってきたが、日本人が固有性と多様性を本気で理解するには、まず、私たち自身の暮らし、つまり生活文化への見直しと再発見から始めたらよいと思う。

それは、インバウンドで来日する観光客の多くが、まさに「異国体験」として、地方の田園風景を美しい、お金を払ってでも観たい、体験したいと感じているという現実についても同様だ。日本人が本気でそういった観光客の心情を理解するためには、もう一度、日本の原風景についての魅力をしっかり見直し、景色や景観の保存とともに、そこに暮らす人々の本物の生活文化の継承の意味を見つめなおす必要があると思う。

連載:Enjoy the GAP! -日本を世界に伝える旅
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文=古田菜穂子

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