分散型組織は成立するか
コンセンシスの問題点は、暗号通貨の暴落やルービンの資産の減少よりも、むしろこの組織構造にあるのかもしれない。
ルービンはコンセンシスをいわゆる「ホラクラシー組織」にしようとしている。管理者も上下関係も存在しない。意思決定は分散型で行われ、従業員は自ら肩書を選ぶことができる。決まったデスクをもつ者はほぼいない。
コンセンシスは「“労働と企業の未来”を再創造している」と謳う。ブルックリンにあるハッカーの巣窟のような社屋は、反体制的な雰囲気が溢れている。壁には「分散型の未来へようこそ」と書かれた大きな看板が躍る。
CEOであるルービンは、メンバーに「ああしろ」「こうしろ」と命じないよう努めている。「彼は“アンチCEO”とか“アンチ創業者”になろうとしている」と、元従業員のジェフ・スコット・ウォードは言う。
コンセンシスには、締め切りに間に合わせることや、迅速に事を進めることへのインセンティブが乏しい。「収入を生みだしたり、シリコンバレーの普通のVCや企業が掲げるような“目標を達成すること”へのプレッシャーが欠けている」と、Balanc3を率いるグリフィン・アンダーソンは言う。企業口コミサイトGlassdoorのある投稿者は、コンセンシスを「資金は無尽蔵だが、実際に何かを成し遂げることへのプレッシャーは皆無の場所」と評した。
もちろん、分散型組織に利点があることも確かだ。プロジェクトは共同作業となり、縦割り特有の弊害は生まれない。同僚の考えに異議を唱えても、それがマイナス評価になることはほぼない。従業員はプロジェクト間を横断的に異動でき、だからこそ組織の自律性が担保される。
コンセンシスのスポークのひとつであるTruSet共同創業者のトーマス・ヒルは言う。「コンセンシスはいつか、ハーバード・ビジネス・レビュー誌のケーススタディに採りあげられますよ。組織構造の革命児として。もしくは、大失敗の見本として」
来るべき「分散型の時代」に向けて、ビジネスを創造し直そうというルービンの探究にひとつの逆説があるとしたら、それは、コンセンシスが極めて中央集権的だということだろう。
これまで、コンセンシスのスポークが独立した場合、ルービンは50%かそれ以上の持ち分を確保してきた。つまりルービンは自らを、南北戦争後の好況期におけるジョン・ピアポント・モルガンやアンドリュー・カーネギー、あるいはネット時代におけるジェフ・ベゾスやマーク・ザッカーバーグなどに匹敵する、ブロックチェーン時代の支配者に仕立てようとしているように見える。
「網目やら分散化やらは、そこでまるごと瓦解する」と、元従業員のウォードは言う。
「誰がどれだけの持ち分を握るかはまるで不明瞭だった」。
ICOを行ってスピンアウトしたコンセンシスのプロジェクト、Grid+のケースでは、ルービンは株式の半分に加えて、本誌推定で20%ものトークンを手にしている。
「分散化とは何か。彼らがその本質を理解しているかは疑問だ」と、コインシェアーズのデミロースは言う。
コンセンシスの株式を1200人の従業員と共有するという話も定番のジョークと化した。元従業員たちの話によれば、ルービンは長らく回答をはぐらかし続けており、そのことについて聞かれるといつも、「6週間後に」やる計画だと答えるという。
実際、最初の100人ほどの従業員は、17年の前半に株式を受け取った。それから2年近くが経過したが、会社側は依然として「より多くの従業員に株式を与える計画に取り組んでいる途中」だと話す。
ルービンも一部の問題点は認めている。「説明責任については社内でずっと議論してきた」。しかし、コンセンシスの組織構造に矛盾があるとは考えていない。
「多くの人々に奉仕するシステムを作ることができ、彼ら全員がそのシステムを喜んでいるなら、それを生みだす会社は必ずしも多くの人々に平等に所有されている必要はない」
現在のところ、ルービンの壮大な実験は時間との競争だ。彼の財布が空になる前に、成功するブロックチェーン・アプリが生まれるかどうか、だ。
ジョセフ・ルービン◎1964年、カナダ生まれ。ロボット工学の分野でキャリアをスタートし、その後金融分野に転向。金融取引システムの開発、ヘッジファンドの運用、富裕層の資産管理などに携わった。イーサリアム創業の初期メンバーであり、イーサの最大の保有者だと見られている。保有資産額は10〜50億ドル。2014年末、コンセンシスを創業。
ヴィタリック・ブテリン◎1994年、ロシア生まれ。カナダのウォータールー大学を中退後、19歳でイーサリアムを発表。保有資産額は4億〜5億ドル。不老不死研究の「SENS基金」に240万ドル相当のイーサリアムを寄付。