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2019.04.24 16:00

ブロックチェーンの「分散型ユートピア」は幻に終わるのか?

ジョセフ・ルービン

ジョセフ・ルービン

イーサリアム創設メンバー、ジョセフ・ルービン率いる暗号通貨コングロマリット「コンセンシス」。暗号通貨富豪が資金をつぎ込む“分散型社会の夢”にプリンシプルはあるのか──。


2013年11月、イーサリアムは当時19歳だったヴィタリック・ブテリンによって考案された。イーサリアム創設の初期メンバーであるジョセフ・ルービン(54)が「コンセンシス」を創設したのは、14年後半、1イーサ30セントでこのトークンを市場に公開した数カ月後だ。

コンセンシスは、世界初の暗号通貨コングロマリットであり、イーサリアムを支持する営利企業のネットワークだ。ルービンはこの持ち株会社のことを、世の中に役立つインフラや分散型アプリ(dApps:decentralized applications)を作るための、世界的な「機関」だと呼ぶ。

ニューヨーク・ブルックリンにあるコンセンシスの本部から、短期間に50社以上の企業が生みだされた。ポーカー・サイトやサプライチェーン企業、市場予測、医療記録の会社、サイバーセキュリティのコンサルティングまで、業種は多岐にわたる。

資金調達のラウンドや社債の発行は行われなかった。ルービンはコンセンシスというコングロマリットのすべての車輪の“スポーク”(=プロジェクト)に、手持ちの暗号通貨から資金を与えてきたのだ。

いま、コンセンシスの基盤には深刻な亀裂が入りはじめている。ひとつは、イーサリアムが強烈な逆風を受けていることだ。ブロックチェーン内にアプリを埋め込むことができるという技術的優越性のおかげで、イーサリアムは何百というトークンの新規暗号通貨公開(ICO)の舞台となった。

だがそれらの多くは、その支持者に何十億ドルもの損害を与える結果となった。暗号通貨の世界を眺めれば、イーサリアムを基盤とした不運なICOの死骸が累々と転がる惨状で、米・証券取引委員会(SEC)などの規制当局も、その一部を調査対象にし始めた。

昨年11月にはイーサリアムを基盤にするエアフォックスとパラゴンという2社のスタートアップが、SECから民事制裁金を課されている。両社は17年に実施したICOにおいて、「無登録の有価証券」を2700万ドルで売ったとされている。両社のトークンはいまやほとんど無価値になっている。

もうひとつの懸念は、(同社にはコメントを断られたが、本誌の推定では)このコングロマリットに存在する事業の大半が赤字であり、一部は黒字化が見込めそうにないことだ。ルービンの「機関」は年間1億ドル以上ものペースで現金を溶かしているように見える。それでもルービンは、いまなお成長フェーズだと言い切る。コンセンシスはいまや1200人の従業員を抱え、公式サイト上ではさらに200人を募集中だ。

イーサの時価総額は18年初めに1000億ドルを突破し、ルービンはその流通量の5〜10%を保有していると伝えられていた。とすると、ルービンの資産額は50億ドル以上となり、暗号通貨業界で第2位の富豪だったはずだ(1位はリップル共同創業者のクリス・ラーセン)。

イーサの価格が100ドルあまりまで急落したいま、ルービンの資産額も10億ドルを割り込んでいる可能性がある。彼はいつまで自らの夢に資金を出し続けられるのか。それは彼がどれほどのイーサを売却したのか──そしていつ売ったのか──にかかっている。
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文=ジェフ・カフリン、サラ・ハンセン 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

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