ダライ・ラマの担当医、バリー・カーズィンが考える「幸せな生き方」

ダライ・ラマの担当医、バリー・カーズィン(Getty Images)

「本物と見かけ上の差異 (gap between appearance and reality) を縮める努力が必要です」

ダライ・ラマ法王の担当医でチベット仏教僧侶、ワシントン大学客員教授という多くの顔を持つバリー・カーズィン先生が主催するヒューマンバリュー総合研究所による、教育者のためのプログラム「健康的な若者を育み、未来の教育への道を照らす」セミナーに参加しました。

大きな社会システムの1つである教育がより一層、先生や子どもたち一人ひとりの成長の場となっていくためには、表面的なカリキュラムの変更だけでは不可能です。企業でも、沈んでいる会社を成長サイクルに回復するためには、組織文化からテコ入れする必要があります。そのためには、新しい会社を興し、その企業の目指す方向性に合った人材だけを集めるよりはるかに「時間」と良い意味での「しつこさ」が必要です。

「では、そのシステムにいる一人一人が、自らの人生がより幸せになることを目指し、主体的に変わっていったらどうなるんだろう?」

そんな漠然な思いを胸にセミナーに参加しましたが、この会を通じて、幸せに生きることに取り組んだら、生涯にわたる主体的な学びに繋がると実感しました。そのポイントをいくつかご紹介しましょう。

幸せというのは、享楽ではない

一定のレベルを超えると、収入と幸せの関係性は相関しないという研究は、よく知られています。我々が住む資本主義を前提とした国では、モノやサービスを入手するのためにお金がかかることがほとんどです。とはいえ、バリー先生のおっしゃる「本物と見かけ上の差異を見極める力」がつけば、不必要なモノやサービスに依存することが減るのだろうと思います。

バリー先生はこうおっしゃいました。「自分の感覚なんて当てにならないものです。ついつい食べすぎてしまうのが良い証拠です」

クリスチャン・マスビアウの「センスメイキング」にも書かれている、必ずしも論理的ではない、鍛錬された経験に基づく感覚は大切です。まさにその鍛錬から磨かれていくセンスが、本物と見かけ上の差異を減らしていくための努力なのだなと、腹落ちした瞬間でした。

そのためにはバリー先生曰く、これからの時代の子供たちには、「SEL(Social Emotional Learning - 社会性と情動の学習) + Ethics(倫理)= SEEL」を早い時期から学ぶことが大切なのです。

SEL は、グロースマインドセット、帰属意識や自己コントロール、コミュニケーションスキルなど、幸せな社会生活を送るために必要なマインドセットや行動を身につけることを奨励する学びで、この様にも語られています。

社会性、感情、そして認知の資質は人生を通して学ぶもので、学校、職場、家庭、そしてコミュニティでの成功にとても大切な能力で、個人が社会に意味のある形で貢献することを可能にします(社会、感情、そして学力発達に関するアスペンインスティチュート国立委員会、2017年)

バリー先生によると、グロースマインドセットとは、目的を持った学びにより、知的能力が成長できると信じている状態を指すそうです。教育の現場に当てはめるとすると、安心安全な環境で、目的を持った学びを行なっていると生徒一人一人が自ら感じられる状況を準備できるかが、肝になりそうです。

驚いたのは、エモリー大学がダライ・ラマ法王トラストとバナ財団のサポートを受けて SEL + Ethics (倫理)を学ぶ、SEE Learning を開発されたこと。インドのニューデリーで SEE Learning のプログラムをスタートさせるのだそうです。実証プログラムに参加した先生や子供たちの動画を見ましたが、「前よりも優しい人になれた気がする」「友達と自分の気持ちについて話しやすくなった」「仕事の負荷が増えずに取り入れられた」などのポジティブな感想が寄せられていました。

SEE Learning のようなプログラムを実施するメリットは、集中力の向上、パフォーマンスの向上、精神疾患の現象、優しさや共感の習得、価値観や倫理観の向上といったものが挙げられるそうです。日本でもマインドフルネスはビジネス界で広まりつつありますが、 SEELへの取り組みが増えてほしいものです。バリー先生は、「SEE Learning は人生へのアプローチの方法です」と述べられていました。
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文=竹村詠美

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