台湾総統目指すフォックスコン会長の「政治家の資質」

台湾総統選挙への立候補を表明したテリー・ゴウ氏(South China Morning Post / Gettyimages)

電子機器の受託生産(EMS)で世界最大手の台湾「フォックスコン(鴻海精密工業)」を率いるテリー・ゴウ(郭台銘)董事長が、来年実施される台湾総統選挙に立候補する意志を明らかにした。

ゴウは対中融和路線をとる野党の国民党(KMT)の予備選に参加し、総統候補に指名されることを目指す。台湾ではゴウのような著名なビジネスリーダーが、国家のトップになった事例はこれまで存在しない。

現在の台湾総統の蔡英文は民主進歩党(民進党)出身で、2016年に彼女が現職に就いて以来、中国は台湾の独立志向に警戒心を高めている。

78億ドル(8700億円)の資産を保有するゴウは台湾一の富豪であり、一部の国民からは熱狂的支持を得ているが、彼が総統を目指すにあたっては課題もある。政治経験を一切持たない彼は、ビジネス界の経験のみを頼りに人口2300万人の台湾を束ねる必要がある。

さらに、重大な問題となるのが、ゴウが中国に対し多大な投資を行っていることだ。台北のシンクタンクPolaris Research社長のLiang Kuo-yuanは「これまでのゴウの行動から考えて、政治家としての彼は効率第一の姿勢を打ち出すはずだ」と話した。

出馬宣言にあたりゴウは、「この国を愛する人々は、平和と国家の経済的繁栄を目指し、力を合わせるべきだ」と述べた。「私は総統選挙に出馬する。仮に私が選ばれなかったとしたら、それは私の努力が十分でなかったことを意味する」

ゴウは1974年に「鴻海プラスチック企業有限公司」を立ち上げた後、家電製品や携帯電話の製造業界に進出した。フォックスコンはiPhoneの組み立てを行う企業として、世界的知名度を獲得した。同社の2018年の売上は1720億ドルに達した。

台北の国立政治大学のHuang Kwei-boは「フォックスコンは中国にも工場を置いており、ゴウの出馬にあたっては彼と中国政府の関係にも懸念が生じることが予想される」と話す。

フォックスコンは中国の9都市で12の工場を稼働させており、今後はゴウの中国でのビジネスと、台湾の政治との関わりが議論されるはずだ。同社が成功を収めた背景には、中国で安価な労働力を調達したことがあげられる。しかし、フォックスコンの中国の工場では2010年に自殺者が相次ぎ、世論の厳しい非難を浴びていた。

編集=上田裕資

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