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『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞した上田岳弘氏

昨年、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?  経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)がベストセラーになったことは記憶に新しい。「論理的思考だけでは戦えない時代が来ている。グローバル企業の幹部候補も『直感』と『感性』を大事にし始めている」といった論旨が、実業界に生きる現代人の興味や危機感を誘ったのだろうか。

2つ以上の専門分野を持つことの強みが言われ始めてもおり、アカデミアにおいても、いくつかの分野にまたがって研究する「学際」の態度が必須とされている。自分の分野だけを突き詰め、タテ穴を深く掘る研究だけで、それが他の領域にどういう意味を及ぼすか知らないと、応用の機会を逸することが多いというのだ。

上田岳弘氏は今年1月、仮想通貨をモチーフに、合理化が極まった世界における幸福の姿を問うた作品『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞した。上田氏は、ソリューションメーカーの立ち上げから参画し、現在は役員を務める兼業作家だ。

上田氏はまた昨年、Yahoo! JAPANと新潮社の共同企画で、小説『キュー』をWeb上に連載した。Yahoo! JAPANとの連携も、ビジネスでアライアンスを担当している日常の発想習慣から思いついたという。

2つの専門領域にまたがって活動する上田氏にとっての「文学と実業の彼岸」とは何か。メールインタビューした。


━━ITの発達と文学との関わりについて、どう思われますか。

世の中のIT化が進んでいる割に、文学がなかなかおいついていかないよな、という思いもあって、芥川賞受賞作『ニムロッド』の出だしは、「サーバの音がする。」から始めました。

先端企業のお勤めの方が、効率化の末になにか別のファクターをということで、文学を含む芸術に期待をかけているのかな、と感じることは実は結構増えてきました。

━━ビジネスにおける発想・思考の方法と、文学における発想・思考の方法とは関連がありますか。

小説を書く場合は、自分が書こうとしているまだ形が定まっていない"何か"に、形を与えていくために、一文を書いてみます。それが 静かな湖面に小石を落としたみたいに、その”何か"に波紋が広がっていきます。そしてまた一文を書き加えると、その波紋が斑紋となり徐々に"何か"が小説として形を成していきます。

ビジネスの場合も実は似たところがあって、「こうかもしれない」と言う仮説をたてて成立に必要なキーパーソンや会社に連絡を取ってみる、その反応でまた次の動きを考える、というように段階を踏んで行き、やっぱり徐々にあるべき(あるいは出来得る)形が見えてきます。

ただ、小説の場合は生成の途中段階で、自身の判断の占める割合が、いつでも否応なく現実の制約をうけるビジネスに比べ多いと思います。

個人的にはかなり共通する頭を使っている気がしますね。

構成=石井節子

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