ビジネス

2019.05.03

ベンチャー企業役員で芥川賞作家。彼は「小説」をどうビジネスに取り込んでいるか

『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞した上田岳弘氏


━━「ビジネスのことば」と「文学のことば」ではどのような違いがありますか。2つの間に「壁」は存在するのでしょうか。

ビジネス=金儲けのようなイメージを持たれている方も多いのではないかと思います。しかし、僕の拙い経験から言えば、優れた経営者は「こうすれば儲かる」と語るのではなくて、「こうすればより世の中が良くなる」という視点でビジョンを語ることが多いように思います。

その場合、当然、既に目の前にあるものではなくて、未だ存在しないものについて語ることになります。

けれども残念ながら、資本主義下においては(特に上場企業においては)常に株価や株主をケアしなければなりませんし、いかに自社株が投資効率が良い商品であるのか、といった文脈での説明を要請されます。

根本のところでは「文学のことば」に繋がるものがあるはずですが、そんな圧力のために、ビジネスの現場においてはいくらか形而下的な物言いをする必要に迫られているように見受けられます。

そういった「資本の壁」のようなものの存在を時々意識しますね。

━━「1冊も小説を読んだことがない」という実業家がいたとします。この人物に、小説を読むように”勧めなければならない”(考えにくい状況ではありますが)としたら、どのように話されますか。

なぜこれまで読んだことがないのかを聞いてみますね(笑)。それで納得できればあえてお勧めしません。

でも一冊も読んだことがないという経営者とはあまり話が合わなそうですね。ちょっと怖い。

ただ、「人生で一冊ぐらい読んだ方がいいのではないか?」とだけ申し上げておき、「もし死期がわかったらここに連絡ください」と言ってメールアドレスなり、LINE IDを渡したいところですね。もし連絡があったら、その時々とその方の状況に応じて相応し気な本をお勧めします。

それが、たまたま僕の本だったらいいんですけど(笑)。

構成=石井節子

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