同じオンラインビジネスでも、圧倒的な利益率であるところが見込まれ、2009年には、最大手のアマゾンが会社ごと買収。但し、売却条件は「今のまま」だった。ということで、売却された後も、同じ経営者が同じ場所で同じ社内ルールでビジネスを続け、アマゾンとのEコマース上の連携さえしていない。
そんな経緯もあり、この会社のビジネスモデルは、とにかく「企業文化絶対主義」。「社員の幸福=お客さまの満足」とはっきり宣言する方針を掲げ、従業員の福利厚生に手厚い。
具体的には、健康保険の本人負担部分まで会社がお金を出したり、社員が誰かの葬儀に香典を出す場合には、上司が同意すればそれを会社が肩代わりしたりするなど、他のアメリカの会社にはまったく例がないことをやっている。
さらに、いわゆる古典的な福利厚生というよりも、社員間のエンターテインメント、つまり職場での愉快さこそが高揚感を生み、最高のカスタマーサービスを提供できるということで、社員の遊び感覚が甚だしく奨励され、そのコンテストもあるほどだ。
Eコマースなのに心温まる電話対応
この遊び感覚は、豊富な写真とともにネットでも紹介されているが、ひとことで言えば、「毎日が学園祭」のノリだ。誰1人として、普通のオフィスらしいデスクはなく、自分が贔屓のスポーツチームのグッズを飾ったり、好きな動物のぬいぐるみで机の上に山をつくったり、ハワイがテーマのジオラマをつくっていたかと思うと、エスキモーの恰好をして働く人もいる。
この会社の日常はまさに「遊園地」さながらだ。なぜかというと、ザッポスでは毎日会社見学を無料で受け付け、そこで会社を見てまわる人たちに紙吹雪を降らせて歓迎したり、鐘や太鼓を鳴らして歓待したりということを始終やっているからだ。筆者も、会社見学をした際には、文字通り目を丸くした。
ラスベガスのダウンタウンにあるザッポスの本社(Getty Images)
この従業員の愉快な勤務環境が、楽しく、豊かで、フレンドリーなカスタマーサービスを生むというのは、ほぼ実証されている。顧客のリピーター率が驚異的な75%もあり、ネットで売る会社でありながら、電話番号を前面に出し、電話で注文を受けることも多い不思議なEコマースでもある。
筆者もネットで買えばいいところを、わざわざ何度かザッポスに電話をかけて電話注文をしたことがあるが、これ以上に心温まる電話応対を経験したことはない。
ただ、このビジネスモデルの難しいところは、その個別のサービスを成文化できないことだ。なんでもマニュアル化するコンプライアンスの時代に、一面では逆行している。
また、「毎日が学園祭」というのは結構なことだが、エンターテインメントを受ける人間の心には、すぐに「慣れてしまう」という現実もある。もっと面白いモノ、楽しい体験、奇抜なことを求めて、愉快のアップグレードを求め続けると、それはどこかで壁にぶち当たる。