世界各国で始まる、刑務所とAIの蜜月

Photo by Dickson Lee/South China Morning Post via Getty Images

中国で、容疑者の追跡や犯罪の摘発に高性能な人工知能(AI)システムが利用されているという話題は広く知られるようになったが、今後は犯罪者たちを収監する刑務所にもAIが普及していくかもしれない。今回、中国司法部が運営する燕城刑務所に、最新のAI監視システムが導入されていることが明らかにされた。

現地および海外各メディアが報じたところによれば、AI監視システムが導入された河北省の燕城刑務所は、北京にある秦城刑務所と双璧をなす中国を代表する“豪華な刑務所”と評されている。また“大物”が数多く収監されており、汚職の末に摘発された高級幹部、いわゆる「腐敗した虎」が数多く捕まっているのも燕城刑務所の特徴とされている。

代表的なのは、習近平の政治ライバルとされてきた前重慶市党書記・薄熙来氏の夫人、谷開来。谷開来は、英国人実業家ニール・ヘイウッド氏を毒殺した容疑で逮捕され、現在、無期懲役刑で燕城刑務所に収監されている。

その他にも、中国中央TVの元有名アンカーの芮成綱、前鉄道部運輸局長の張曙光、前中国サッカー協会副会長の南勇などが服役していることで知られる。

燕城刑務所にAI監視システムが導入されることで、脱獄はもちろん、収監者たちの違法もしくは規則に則らない行動が困難になったと、各国メディアは報じている。というのも、現在のAI技術は、対象や対象の行動の認識のみならず、対象が未来に起こしうる行動まで予測するからだ。

同刑務所には天津大学や監視ソリューションに特化した企業・天地偉業のシステムが採用されているが、天地偉業のスタッフは、200名ほどの人間の顔を同時に認識しつつ、各人の些細な動きまですべて捉えることができると、自社システムの性能をメディアに誇っている。

囚人を労働力として利用も

一方で、刑務所とAIの関係性においては、単に収監者の監視にAIを利用するという以上の動きが生まれつつある。例えば、フィンランドのスタートアップ企業Vainuは、人工知能の学習データを作成するため、囚人を労働力として利用し始めていると報じられている。

人工知能の学習を行うためには、画像やテキストなど各データに「ラベル付け」を行わなければならない場合があるが、この作業を安価な労働力、すなわち囚人に担当させようというのがVainuの狙いだ。

AIを生むためAIに監視され労働力として生きる。なんだか物騒な話だが、世界各国のニュースを合わせるとそんな刑務所の未来が見えてくる。刑務所という施設は社会全体の縮図でもある。

AIがテクノロジーとして高い期待を受けているのは事実だが、いつの間にか人間がAIの奴隷となるような本末転倒なシナリオには備えていくことが必要かもしれない。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河鐘基

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