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2019.04.22

突然変異は誰にでも。NHK「人体」プロデューサーに聞く遺伝子の話 

『NHKスペシャル 人体』のチーフ・プロデューサー 浅井健博氏


平井:取材を進める中では、いろいろな発見や学びもあったと思うのですが、具体的なものを教えてもらえませんか?

浅井:興味深かったのは、アイスランドのカーリ・ステファンソン教授に取材させて頂いたときに聞いた、「突然変異は誰にでも起きている」という話です。新しい命は、父親と母親2人のDNAを引き継いで誕生します。その際、突然変異が起きること自体は分かっていたのですが、ステファンソンさんは、誰にでもおよそ70か所の突然変異が起きていることを具体的に示しました。

20年以上をかけ、国民の半数以上のDNAを集めてきたステファンソンさんは、解析技術が進歩し解析コストも安価になったことで、数千組の親子の全DNAを一挙に解読し、その新しい事実を発見したのです。

平井:70もの突然変異が起きると、どんな影響があるのでしょうか?

浅井:その突然変異に、新しい可能性が秘められているということです。言い換えれば、これが人間の多様性の根源であるともいえます。

たとえば、基本的にタバコは体に悪いとされていてオススメできないのですが、なかには吸い続けても健康を保ち続けている人もいる。そういう人を調べてみると、実は肺の炎症を強く抑える能力のある遺伝子を持った人だったりするのです。コーヒーでも同様で、遺伝子的にコーヒーで健康に良い効果を得られる人と、そうでもない人がいるという結果が報告されています。

そうした研究を知るにつれて、薬であったり、世の中に紹介されている健康情報であったり、あるいは栄養摂取基準のようなものも含めて、実は様々なことが、平均的な話ではないということに合点がいくのです。この辺りは番組内でも詳しく掘り下げていくので、ぜひ見ていただきたいですね。

平井:つまり今までは、背景情報の異なる集団を解析して得られた健康情報が推奨されていたわけですが、個人の遺伝子をしっかりと把握したうえで各自にカスタマイズさせたアクションをとっていかないと意味がないということですか。

浅井:そうですね。平井さんにとって良い食生活と、私にとって良い食生活は異なる可能性はあると思います。ただ、このテーマは、最先端科学が議論を始めている段階です。今日明日で、すぐに生活に取り入れられるものではありません。まだじっくり時間をかけて研究されなければいけない部分もあるのですが、ただ、そういうこともあるのだという「気づき」を得るのには役立つはずです。(次回に続く)




浅井健博◎1994年、NHK入局。大型企画開発センター チーフ・プロデューサー。専門は科学ドキュメンタリーの制作で、主にNHKスペシャルを担当。これまで「足元の小宇宙」「腸内フローラ」「新島誕生西之島」「ママたちが非常事態」などの番組を制作。放送文化基金賞、科学技術映像祭、科学放送高柳賞等を受賞。5月5日から放送が始まる「シリーズ 人体Ⅱ 遺伝子」の制作統括。

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