この遺伝子が、私たちの健康にどう関係してくるのか。平均視聴率12.6%を記録した「NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク」、私も番組には深い感銘を受けましたが、チーフプロデューサーを務めた浅井健博さんは、さらに新シリーズを準備しています。5月に初回が放送される番組名は、ずばり「シリーズ 人体Ⅱ 遺伝子」。浅井さんに、遺伝子に関する興味深い話を聞ききました。
平井孝幸(筆者):実は、僕自身、遺伝子というものに全く興味がありませんでした。生まれた時から変わらないものと聞いていましたし、健康に直結するようなことではないと思っていました。浅井さんが、遺伝子の取材を始めるにあたっては、どんな経緯があったのでしょうか?
浅井健博:「NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク」は、2017年9月に始まったのですが、私は初回から関わっていました。シリーズは全9回で、去年3月に最終回を放送したのですが、視聴者の皆様から大きな反響をいただき、今後、どのように次のシリーズを進めていくべきか、司会の山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)先生と、いろいろ話し合っていたのです。山中先生が注目しておられたのが、ご自身の研究と深い関わりのある遺伝子でした。
前シリーズで取り上げたのが、臓器同士、細胞同士でやり取りされる「メッセージ物質」というものだったのですが、これにも遺伝子が深く関わっています。なので、新シリーズで、全ての根本である遺伝子を取り上げるのは必然なのではないかと思いました。健康情報に終始するHOW TO番組ではなく、人体に秘められたロマンを知ってもらえるような番組をつくっていきたいと考えています。
平井:番組をつくるにあたり、徹底的に取材をされていますよね。どの段階で、番組化できると思ったのですか?
浅井:取材をして番組にする際は、現場に躍動感があるかどうかが重要な要素だと考えています。ディレクターからの取材報告を聞くたびに、遺伝子と関わる研究室は、どこもものすごく活気があって、これは間違いなく面白い番組になるなと確信しました。しかも、取材を進めていくうちに、このテーマがどんどん興味深いものだということがわかってきたのです。
平井:興味深いものとは、どんなことだったのでしょうか?
浅井:遺伝子は、DNA全体のわずか2%の領域だけなのです。これまでは、その2%を中心に研究が進められ、残りの98%はゴミだとさえ言われてきました。ところが遺伝子解析技術の圧倒的な進化によって、DNAをくまなく高速で解析できるようになったことで、今までゴミとされていた部分が宝の山だったことがわかってきたました。さらに2%の遺伝子部分にも、今まで考えもしなかったような驚くべき機能が潜んでいることもわかってきたのです。
これらは最先端科学の中でも、いちばんの先端の部分で、ものすごく難しい話も入ってきます。だからこそ、これを映像化するのは、挑戦しがいのあるテーマだなと感じました。遺伝子やDNAの解明というのは、まだ入り口に立ったばかりなのですが、これからの医学を大きく変えていく源流であることは間違いありません。