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世界19カ国から100社以上のスタートアップが集結した「SPORTS TECH TOKYO」キックオフ・カンファレンス

2019年4月。スポーツテックの未来を担うさまざまなプレーヤーが東京に集結し「SPORTS TECH TOKYO」のキックオフ・カンファレンスが開催された。

イベントの主役であるスタートアップは、世界19カ国から104社が参加。スポーツ×テクノロジーの最先端プロダクトを引っさげ、熱いプレゼンを繰り広げるなど、会場は3日間にわたり熱気と興奮に包まれた。また同時に、2020年を来年に控えスポーツモーメンタムの高まる東京が、世界のスポーツテックをリードすることを強く印象付けるイベントとなった。

「SPORTS TECH TOKYO」とは電通と米サンフランシスコに拠点を持つスクラムベンチャーズが共同で開催する、スポーツテックをテーマとしたアクセラレーション・プログラム。優れた技術を持つ世界中のスタートアップと企業、スポーツチーム、投資家等とをマッチングさせながら、スポーツとビジネスにイノベーションを起こすプロダクトを生み出すことが目的だ。

4月8〜10日、東京・日比谷で開かれた3日間のキックオフ・カンファレンスをForbes JAPAN編集部が詳報する。

東京の地だからこそ、スポーツテックが放つ存在感

キックオフ・カンファレンスには、スポーツ庁の鈴木大地長官をはじめ、日本を代表するスポーツチーム・リーグのトップ、スポーツテック領域への事業投資を見据えた大手企業など、これからのスポーツとスポーツビジネスを担うキーパーソンも集まった。

鈴木スポーツ庁長官を中心にパートナー企業、スポーツ・アドバイザリー・ボード、主催者等が集合

キーノートスピーカーとして登壇した鈴木長官は、「今後数年間にわたって国際的なメガスポーツイベントが続く日本、そしてその首都である東京からスポーツテックが発信されていくことに大きな意義がある」と語り、今のスポーツが持つ多面的可能性の話へとつなげた。

「スポーツに大きな注目が集まるこの3年間で、スポーツが持つ力と価値を、他の産業の皆さんのノウハウを活用することで互いに高め合っていく。社会的な課題の解決にも貢献するような新しい製品やサービスを、スポーツをハブとしたイノベーションによって生み出していきたい」

また鈴木長官はこんな言及を通して、スポーツとテクノロジーがもたらす未来を示した。

「テクノロジーと融合することで、スポーツを見る方々がより楽しめる環境が整い、スポーツを支える側もビジネスとしてどんどん伸びていく。スポーツを中心にして多角的に可能性が広がっていくなかで、関わるすべての方々がハッピーになっていくのです」


登壇した鈴木大地スポーツ庁長官

スポーツテックのムーブメントが、ビジネスとしての価値を生む 

キックオフ・カンファレンスは19カ国のスタートアップが参加したが、多様なのは国だけではない。スタートアップが持つテクノロジーやプロダクト、狙うマーケットはさらに幅広い。実はこれこそスポーツテックが持つ特徴であり、いま、ビジネス視点で注目が集まっている理由だ。

たとえば、自分自身が行う「競技」や「トレーニング」を進化させるテクノロジーがある。そしてその「競技」を「観戦」するスタジアムを進化させるテクノロジーがある。また、TVやネットを通じ「観戦体験」に革命をもたらすテクノロジーは、エンターテイメントとしての価値を高めていくだろう。一方、「観戦」の近くには応援があり、選手とファンをつなぐ「ファンエンゲージメント」を新しくするテクノロジーも考え出されている。

スポーツテックとは、もはやスポーツそのものだけの話ではないのだ。

その領域の広がりを反映するように、「SPORTS TECH TOKYO」にはさまざまな業界の企業がパートナーとし参画している。今回のキックオフ・カンファレンスでは、それらの業界との親和性が高いことを証明しながら、スポーツテックがいま、ビジネスとしても劇的に存在感を増していることを印象付けた。


「SPORTS TECH TOKYO」には、多様な業界の企業がパートナーとして参画

「SPORTS TECH TOKYO」にプラチナスポンサーとして参画している伊藤忠商事ビジネス開発・推進部の田上裕貴氏は、ビジネス面から見たスポーツテックの価値をこう語った。

「スポーツテックは欧米を中心に成長を続けていますが、『SPORTS TECH TOKYO』の取り組みを通じ、日本、アジアへと繋がる展開、またその逆の展開も期待できます。純粋な『スポーツ』のみならず、健康・食・地域創生などスポーツを取り巻く他産業との連携やイノベーション創出の可能性も期待でき、そこにビジネスチャンスが生まれます」
 
また、自社が持つ機能をスポーツテック領域へ活用していくことに自信もみせた。

伊藤忠は中期経営計画(Brand-new Deal 2020)の中で①商いの次世代化②スマート経営③健康経営No.1企業を掲げています。多様な産業に関わりがあり、新技術を取り込み進化させることを目標とするスポーツテック分野は、上述の伊藤忠3大方針と合致し、常に新しい価値を提供する総合商社としての伊藤忠の機能が活かせる分野と考えています」

スポーツテックの未来を作るスタートアップの熱量 ピッチ・セッションを詳報

2日目には104社のスタートアップ全社が参加し、プロダクトを150秒でアピールするピッチ・セッションが開催された。


1社150秒、全104社のスタートアップによるピッチ・セッション

ピッチ・セッションは、多種多様なスタートアップを「アスリート・パフォーマンス」、「スタジアム・エクスペリエンス」の「ファン・エンゲージメント」の3カテゴリーに分け、それぞれ別の部屋で行われた。

各カテゴリーからForbes JAPANが注目したプロダクトをいくつか紹介しよう。

「アスリート・パフォーマンス」カテゴリーでは、生体データの分析、管理をするウェアラブルや、AIによって個別のコーチングやトレーニング指導を可能にするツール、選手のプレーをトラッキングして分析、改善するシステムなどが目を引いた。

◆ORPHE TRACK

約100個のLEDをソールに仕込み、音と連動して光るデザインのスマートフットウェア「ORPHE TRACK」を開発した日本のスタートアップ「No New Folk Studio」。AIやセンサーを搭載し、リアルタイムでモーションの計測ができるシューズで、ランニング中に足が地面に着いたときの衝撃などを機械学習で分析する。適切なランニングフォームをアドバイスしたり、健康状態を把握したりするという。



Eye-Sync

アメリカ・カリフォルニア州パロアルトのスタートアップ「SyncThink」が開発したVRギア「Eye-Sync」は、アメリカンフットボールやサッカーのプレーで起きる脳震盪を検知するシステム。目や脳に起きている障害を60秒以内に診断する。いち早く障害を検知することで脳震盪や視力障害の悪化を防ぐほか、動体視力を向上させることも期待できるという。



「スタジアム・エクスペリエンス」カテゴリでは、新たなスタジアム観戦や、競技から生まれるデータの可能性を拡張するサービスやテクノロジーが紹介された。

Brizi

SNSが発達したいま、スポーツ観戦の「熱狂」は写真や動画に収めておきたいものである。トロントとボストンに拠点を置く「Brizi」は、スタジアムに観客席を撮影できるカメラを設置。観客がスマホ経由で自在にカメラを動かし、自分たちが熱狂する様子を動画や写真で撮影できるソリューションだ。



共同創業者のAnna Huは野球観戦中、スタジアムの大きなスクリーンに映し出された観客たちがスクリーンを見て興奮している様子を目の当たりにし、「この様子を写真に収められたら」と考えたという。スポーツフォトはこれまで選手ばかりにフォーカスされてきたが、観客たち自身が楽しめるようなソリューションとして注目されている。日本は世界的なカメラメーカーがひしめくイメージング技術の宝庫であり、パートナー探しに意気込んでいた。

Miro

多くの人が参加するスポーツは、データの宝庫だ。例えばマラソン。香港を拠点とする「Miro」はAIを用いて、マラソンの動画や写真からゼッケンで参加者を識別し、どのブランドのどのモデルのウェアや靴を身に着けているかといったデータを取ったり、選手たちの身体の動きを分析したりすることができる。すでに競技者数百万人のデータを分析済みという。



「ファン・エンゲージメント」カテゴリでは、新たなスポーツの楽しみ方が多く提案された。ファンが気軽に動画編集できるプロダクトや、ファンとスポンサーの関わりを深めるサービスなどが目立った。

Snapscreen

リアルタイムで放送された映像を過去に遡ってキャプチャできる「Snapscreen」はスポーツ中継などのテレビの画面を撮影した画像をLINEのトークに投稿すると、その場で中継動画が編集されて送られてくるサービスだ。その動画はソーシャル投稿も可能である。

NHKの海外向けサービス「NHKワールド JAPAN」ですでに使用可能となっている。アプリなどをインストールする必要がなく、LINEのアカウント追加で使える点が魅力だという。


Snapscreen

クライマックスはスタートアップとの真剣「お見合い」

キックオフ・カンファレンス最終日の3日目には、スタートアップとのミーティングを”濃く””一度に大量に”行う「マッチング・ミーティング」が開かれた。

1日で合計568の個別ミーティングを一気に行い、企業やスポーツチーム・リーグとスタートアップの「お見合い」を実現させる大胆な試み。主催者も「この規模でやったことはなく、どこまでうまくいくかは未知数」と話していたが、およそ50のブースで絶え間なく交渉が続き、所定の時間を大幅にオーバーするほど、熱い「真剣勝負」が繰り広げられた。


マッチング・ミーティングの様子。それぞれのテーブルで個別ミーティングが同時開催された

マッチング・ミーティングに参加した企業やスポーツチーム・リーグからは「思いもつかない技術があった」「早速サンプルプロダクト、デモを送ってもらうように依頼した」といった感想があがり、スタートアップ各社からも「我々がこれまで思ってもいなかったプロダクトの使い方、展開アイデアが出てきてびっくりした」「日本のビジネス展開について貴重な示唆を得られた」と、興奮した声が数多く寄せられた。

情報交換的な顔合わせでなく、具体的な出資や連携の話が数多く出るなど、双方にとって実りのあるミーティングが行われ、会場のいたるところで熱い「化学反応」が起きていたことが印象的であった。

「魔法が生まれそうだ」「強いコネクションができた」参加者の声

3日間にわたって、熱狂的な空気や興奮が冷めることがなかった今回のキックオフ・カンファレンス。参加者はスポーツテックとビジネスの可能性に強い手応えを感じていたようだ。会場でスタートアップに感想を聞いたところ、達成感に満ちたコメントを寄せてくれた。


1日目のウェルカムレセプションから参加者のボルテージは上昇していた

先述したスタジアムのカメラソリューション「Brizi」共同創業者のAnna Huはこのように語った。「イメージングイノベーションの中心である東京に来て、私自身の展望と世界的なイノベーターとの掛け合わせで『魔法が生まれそうだ』と思いました」


「Brizi」共同創業者のAnna Hu

スポーツ、eスポーツの試合のハイライトを自動で作成するプラットフォームを開発している、Reelyの創業者のCullen Gallagherは「日本における潜在的なクライアントと多く出会えたのは素晴らしい機会でした。お客様やパートナーとなり得る世界中の企業と強いコネクションが持てました」と語った。

体の動きを記録できるモーションキャプチャーアプリ「Notch」のCEO、Eszter Ozsvaldは「素晴らしいディスカッションや1on1ミーティングの数々、最高の3日間でした。フィットネス向けや健康面に注目しているパートナーとつながることができました。大手メディアにも紹介され、本当に嬉しかったです」と感想を寄せた。

「スポーツテックを非常に幅広いものとして定義することができた」主催者語る

3日間のプログラムを通じ、「スポーツテックとは何か」という定義付けが参加者に共有されたと言えるだろう。

「SPORTS TECH TOKYO」のプログラムオーナーで、電通の事業開発ディレクターである中嶋文彦は、今回のイベントが目指したものについて次のように語った。

「AIを駆使して競技のパフォーマンスを向上させるだけでなく、選手とファン、あるいはファン同士のつながりも深めていく、またARやVRなどによって観戦する環境も劇的に変えていく。そういった、スポーツを複合的に進化させる取り組みをしたい、というのが『SPORTS TECH TOKYO』の根本にある思いです。アメリカや欧州でも同様にスポーツテックの取り組みが始まりつつありますが、東京がその先駆けのひとつになるつもりです」


「SPORTS TECH TOKYO」プログラムオーナー 中嶋文彦

そして今回のキックオフ・カンファレンスでは、想像以上の成果が得られたと中嶋は胸を張った。

「競技スポーツからライブエンタテインメント、ヘルスケア、スタジアムと街づくり、そしてeスポーツ、スポーツベッティング、ファンタジースポーツなど、スポーツテックを非常に幅広いものとして定義したいと思っていました。今回、イベントに参加いただいたスタートアップの多様性や広がりを見て、まさに狙っていたことが実現できたと感じました」

「SPORTS TECH TOKYO」のマネージング・ディレクターを務めているマイケル・プロマンも、「東京からスポーツテックのうねりを起こすことができた」と振り返る。

「スポーツにおいては日本は特別な場所です。今までにないコンテンツやアイデアが東京に集結する。『その機会を逃さずに輪に入りたい』との思いが、参加者の熱気や本気度につながっていたのでしょう。そして、『スポーツテックコミュニティ』を作り上げることができたという意味で、今回のカンファレンスは非常に意義深いものになりました」


「SPORTS TECH TOKYO」マネージング・ディレクター マイケル・プロマン

この熱気を、世界にどう伝播させていくか。今後の展開について、マイケルは次のように語った。

「我々のバリューは、スポーツテックにまつわるあらゆるビジョン、あるいは課題をサポートできることです。パートナーシップを生み出し、投資を呼び込むために、課題解決しながら、東京を起点に世界中にスポーツテックのコミュニティを作り上げていきます」

スポーツテックの新しい歴史が始まる、その現場に立ち合えたという高揚感、そして自社のアイデアやテクノロジーの粋をスポーツビジネスに結実させようという意気込みが会場に渦巻いた3日間。東京がスポーツテックのメッカと呼ばれる日もそう遠くないだろう。


主催者によるオープニングの鏡割り


餅つきのセレモニーには、海外のスタートアップも飛び入り


銀座の名店「久兵衛」の寿司が振る舞われた


リフティングのパフォーマンスに参加者も拍手喝采



会場の一角には、日本発の取り組み「ゆるスポーツ」のブースが設けられた


クロージングパーティーで披露された空手の演武

Promoted by SPORTS TECH TOKYO 文=藤江 直人、久世 和彦、林 亜季、飯村 彩花 写真=岩間 辰徳

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