Y Combinatorは直近のプログラムには約200社のスタートアップが参加しているが、AngelPadではそのおよそ10分の1の19社しか選ばれていない。そんな狭き門にRamen Heroが選ばれた理由は、ラーメン市場の今後の成長性にある。
AngelPadは、書類選考に通過すると2度のビデオ電話面接がある。長谷川は最終面接で、自分に見えている米国ラーメン市場の大きな可能性を信じてもらおうと、数字を交えて詳細に説明していたところ、AngelPadのパートナーから、今も印象に残るこんな一言を言われたという。
「ヒロ、ラーメン市場がこれから大きくなることは全く疑っていないよ。5年前、ニューヨークにラーメン屋なんてほとんどなかった。それがこの5年間で一気に増えて、今ではワンブロックごとにラーメン屋があり、人々は熱狂し、行列を作る店もどんどん出てきている。その変化を実際に見てきたんだ。ラーメンが次の寿司やピザになると、私たちも確信しているよ」(AngelPadのパートナー)
AngelPadの3カ月間のプログラムでは、事業を全米規模でスケールさせるための戦略をパートナーと一緒に徹底的に練ったほか、米国における資金調達のポイントや事業における重要な数字の管理の仕方など、スタートアップに必要な知識を学んでいったという。プログラムを経て、長谷川はAngelPadとアクセラレーターについて、こんな感想を口にしてくれた。
「AngelPadは、シリコンバレーでしばしば語られていることとは大きく違う考え方を持っていると感じる点がありました。シリコンバレーにおいては、ビジネスモデルが成立するかはひとまず置いておいて拡大を目指し、ホームランを狙う。一方で、AngelPadもスタートアップへ出資、支援を行う以上ホームラン狙いは同じなのですが、同時に初期の頃からマネタイズの方法を相当シリアスに考えます。『長期的に利益を生み出さないものはビジネスではない』など、AngelPadのパートナーの話の節々からもそう感じました。パートナーいわく、ニューヨークはシリコンバレーと比べてそういった姿勢や思想を持つ創業者や投資家が多い。Ramen Heroは、数字を継続的に注意深く見て、利益を生みつつ大規模なスケールを目指すタイプの事業です。どのアクセラレーターが良いかは、事業との相性もあるでしょうが、弊社の場合はAngelPadに参加でき本当に幸運でした」
AngelPadを卒業した今、Ramen Heroはサービスの拡大に向けて本格的に動き出す。カリフォルニア州のみだった配送地域を、近々、全米に拡大するという。
「この1年でリピート率も顧客満足度も向上してきました。今後はより多くの人にRamen Heroのラーメンを楽しんでもらえるよう全米展開を成功させ、その中で更にお客様に喜んでもらえるプロダクトや体験を作り続けたいと考えています」
Ramen Heroの事業を通じて、長谷川が実現したいことは「誰もが本格的なラーメンを気軽に食べられる世界をつくる」ことだ。そのため、長期的にはBtoC事業だけでなく、Ramen Heroのラーメンを全米のレストラン向けに提供するBtoB事業の構想も描いているという。
「今の時代はお腹を満たすだけが食の役割ではありません。ラーメンは『こうでなければならない』というルールを持たず、進化を続け、誰もが自分の好きなラーメンを語りたくなる、世界的に見ても独特で楽しいフードカルチャーです。そんなカルチャーと共に、ハイクオリティーなラーメンを多くの人に届け、ラーメンならばRamen Heroと言ってもらえるブランドを作っていきたいです」