ビジネス

2019.04.24

会社の論理より社員の幸せ 木村石鹸の「しなやか経営」

木村石鹸工業の木村祥一郎社長


──2015年には、オリジナルブランドの「SOMALI」を開発されましたね。

それまでの木村石鹸はOEM製造を主としていて、特定のお客さまの要望に応じた商品開発を行なっていました。でも、僕たちが大切にする「こだわり」を、きちんと外に向かって発信でき、また肌に刺激の少ない石鹸の良さを最大限引き出せる商品をつくりたいと開発したのがSOMALIです。

──開発のキッカケは何だったのですか?

石鹸は化学製造に分類されますが、業界についていろいろ勉強するうちに、消費者の無知にかこつけた「ごまかし」が本当に多いと感じたんです。

例えば、柔軟剤のCMにはタオルが使われることが多い。ふっくらとしたイメージを打ち出したいのだろうと思いますが、実際に柔軟剤を使用すると吸水性や通気性はなくなってしまいます。タオルの機能性が失われてしまうのではと思いますが、それらの疑問についてはCMでは一切語られていません。

──確かに消費者側が知る余地はないですね。

化粧品でも、メーカー側は「化学成分・添加物、一切不使用」を売りにしますが、実はそれらの効能を代用するために別の成分、しかもより刺激が強いものを使用することがあります。「地球にやさしい」とされている商品でも、環境に良いのはある一面だけで、他方には悪い影響を及ぼしていることだって往往にしてあります。でも、環境のためにとわざわざ高いお金を出して買ったお客さんが、その事実を知ったら悲しむじゃないですか。

ウチでは、そういうことはやらない。むしろ、メーカーとしては製造のことは知られないほうがいいんですが、敢えて作業工程や原料も全て公表します。SOMALIも固まりやすいなどのデメリットはありますが、それを解決するために別の成分を入れてしまうと、お客さまに安全性を担保できなくなってしまう。

だからメリットとデメリットはきちんと説明をし、納得してもらったうえで、手にとって欲しいと思っています。少し遠回りかもしれないけど。


木村石鹸の運営するECサイト「くらしの丁度品」では、原料や商品を使用する際のメリット・デメリットをはじめ、お客さまからの質問やそれに対する回答まで、全てを包み隠さず公にしている。

──2019年6月に、三重県伊賀市に新設する工場は、まったく新しいコンセプトで運営されると聞きました。


製造業なのでキャパを増やす必要があるのですが、今の工場(大阪府八尾市)では手一杯になって。でも、単に効率良く大量に製造できる工場をつくるのは、僕らのやり方には合っていない。

だから、新しい工場の役割として、お客さまに直接生産現場を見て、知ってもらうという要素も盛り込んだのです。見学した後は、ワークショップを通じて石鹸づくりを体験することもできます。


「新工場の建物の素材にもこだわっています。木とかレンガとか、メンテナンスすることで時間の経過と共に味わあいが出るものを使いました」と木村さん。
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監修=谷本有香 インタビュー=三宅紘一郎 校正=山花新菜 撮影=大田 元

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