──海外ではメルカリのようなフリマアプリでの中古衣料品の個人売買は盛んなのですか?
齊藤:海外でもビンテージ物のような高価な衣料品は個人間で売買されている。ただ、取引は本人同士が直接会って服を引き渡すケースがほとんどで、直接会いもせずに出品から決済までをアプリで済ませる文化はない。
──なぜ、日本でメルカリのようなフリマアプリが普及しているのでしょう?
齊藤:メルカリが新たな市場を切り開いたというよりも、すでにそうした商業的な中古品売買市場があったからこそ同社が成功したのだろう。日本でもメルカリユーザーは37-38歳(1981-1982年生まれ)以下の若年層がほとんど。彼らは子ども時代にマンガやゲームソフトをブックオフなどで売った経験があり、中古品の商用売買に抵抗感がない。いわば消費者が「持つ」ことにこだわらない。日本独自の中古マーケット文化といえるものだ。
──こうしたマーケット環境の大きな変化で、アパレル業界に再編は起こるのでしょうか?
齊藤:確実に起こる、そして生き残るためにやらなくてはいけなくなるだろう。アパレル販売のデジタルシフトは進み、これから全体の20%はオンライン販売に移行するとみられている。つまり、20%の実店舗は要らなくなるということだ。損益分岐点の高い店から消えていく。実店舗が整理されれば、次は本部機能の集約へ移る。つまりM&Aだ。人手不足による店舗スタッフの求人難も、業界再編に拍車をかける。
──業界再編で台風の目になりそうな企業は、どこでしょうか?
齊藤:ECで存在感を示す企業がアパレル市場を左右している最近の動きをみれば、デジタル化を強力に推進する企業が業界再編を主導することになるだろう。ECや在庫管理、顧客管理などの小売りITテクノロジーが重要だ。そうしたテクノロジーを持つITベンチャーを買収したり子会社を立ち上げたりする動きも活発になっている。
たとえばZOZOはZOZOテクノロジーズを持ち、オンワード樫山の持ち株会社であるオンワードホールディングスは2019年3月にオンワードデジタルラボを設立した。いずれもECやデジタルマーケティングについての技術開発を手がける子会社だ。アパレル業界の再編に加えて、アパレル企業によるIT企業の買収という2通りのM&Aが業界内で活発になるだろう。
楽天ポイントを武器にアパレルECで存在感を増す「楽天ブランドアベニュー」(同社ホームページより)
見逃せないのは国内ネット通販最大手である楽天の動きだ。同社はアパレルブランド公式販売サイトの「Fine Style(ファイン スタイル)」やシューズ通販に特化した「Fine Shoes(ファイン シューズ)」などを集約して「Rakuten BRAND AVENUE(楽天ブランドアベニュー)」を立ち上げた。
IT技術の高さと巨大な「楽天ポイント経済圏」を武器に成長しており、アパレルECでZOZOをキャッチアップしている。ZOZOにとっては最大の脅威ではないだろうか。
齊藤孝浩◎明治大学商学部卒業後、大手総合商社に入社、アパレル部に配属される。大手百貨店とともにイタリアブランドの日本法人の設立に携わり、商品部門の中核メンバーとして輸入・ライセンス生産・物流のしくみを構築した。政府公認ビジネス交換プログラムを利用し、米カリフォルニア州サンディエゴのファッショングッズ・新鋭ブランド開拓輸出やバイイングオフィス代行を手がけるベンチャー企業に1年間在籍後、帰国して年商100億円規模のカジュアルアパレルチェーンに勤務。同社取締役経営企画室長退任後、ディマンドワークスを設立。ファッション流通小売企業を中心に、店頭在庫最適化、キャッシュフロー経営導入、情報システム活用、店舗業務軽減、各種業務改革、新規事業開発、幹部人財育成などに当たっている。
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