──売り方にも工夫が必要ですね。
齊藤:最近、注目されているのが「ライブコマース」。タレントやモデルなどのインフルエンサー(SNSなどでフォロワー数が多く、影響力が大きい人)がSNSでライブ動画を配信し、それを見ている消費者がリアルタイムに質問やコメントしながら商品を購入できる仕組みだ。このライブ感が若者からの信頼性が高く、販売につながっている。ライブコマースが進んでいるのは中国。中国人が日本の店舗を訪れて商品紹介をライブ配信し、通販で購入するケースもある。
代表的なライブコマースの一つ「BASEライブ」(BASEホームページより)
──今後のアパレルECで成功するカギは何でしょう?
齊藤:消費者の「面倒」を解消することだ。消費者行動は商品やブランド、店舗の下調べなどをオンラインで済ませて購買する方向に動いており、的確な情報を提供できるECサイトが成功している。実店舗にわざわざ足を運んだのに欲しい商品やちょうど良いサイズがない、どこの店にあるのか分からないといった時間がかかる作業をスマートフォンで済ませることができれば、実店舗でも消費者は買いに来る。
ECは「効率的に売る手段」というよりも、「顧客の手間を省く手段」そして「コミュニケーションの手段」と捉えるべきだ。
──ECは店舗がいらない、省力化できるなど、売る側のメリットが大きいと考えられていますが。
齊藤:最新のEC動向では売る側の省力化や省コスト化ではなく、買う側のショッピングストレスを減らす方向へ動いている。たとえばザラが2018年5月から同8月までの期間限定で六本木ヒルズに出店した「ポップアップショップオンライン」では、顧客が実店舗を訪れて専用アプリで洋服を選び、サイズを指定してオンラインショッピングのカーゴ(買い物かご)に入れる。
そこまでは通常の衣料ネット通販と同じ。「なぜ、わざわざ店に足を運んでまでやらなくてはいけないのか」と思うかもしれない。
しかし、アプリのカーゴには「試着ボタン」があり、クリックすると5分ほどで試着室の番号がスマホに通知され、そこに自分が選んだ服が揃っているという仕組み。クレジットカードを登録し、宅配を希望すればレジに並ぶ必要もなく手ぶらで店を出ることができる。アパレルで考えられるショッピングストレスのほとんどを解消してくれる試みだ。
──新品だけでなく、昔は古着と言われた中古マーケットも無視できなくなりました。
齊藤: フリマ(フリーマーケット)アプリを手がけるメルカリの影響が大きい。メルカリは若年層の消費行動を一変した。メルカリを頻繁に利用するユーザーは、安物の服を買わない傾向がある。メルカリで転売できないからだ。
メルカリ利用者が重視するのは服自体の価格ではなく、購入価格からメルカリで売れる価格を差し引いた金額。こうした動きが、アパレル商品の相場決定に影響を与えるのではないかと注目している。
若年層のアパレル購買行動を変えたメルカリ(同社ホームページより)
──アパレルの相場決定が変わる、と?
齊藤:国内アパレル総売上高はバブル期の1991年に比べると、3分の2に縮小している。一方で数量は2ケタ増と成長した。こうした逆転現象が起こった理由は、ファストファッションの普及などで衣料の販売単価がおよそ半額に下落しているから。消費者の自宅のクローゼットには、安い衣服があふれるようになった。
そうした環境下で「服を所有することに意味があるのか?」という疑問は当然出てくる。気に入った時だけ着て、あとは手放してクローゼットをすっきりさせた方が良いのではないか。そうしたニーズに応えて、大成功を収めたのがメルカリだ。