中国は先ごろ、同国が投資し、同国の業者が工事を請け負うマレーシア東海岸鉄道(ECRL)の建設費用を3割以上減額することに合意した。これは、マレーシアのマハティール・モハマド首相にとって大きな勝利だ。
マハティール首相は昨年行われた選挙で、中国の投資によって進められている国内の事業が自国より中国の利益になっていると主張。再交渉することを公約に掲げていた。
中国の「計画」と苦しむ各国
ECRL建設計画は、中国がグローバル化の新たな章を書き加え、自国にとって地政学的に重要な政策を推進するため、世界各地で進めている何十件ものインフラ整備事業の一つだ。
公共政策コンサルタント英アクセス・パートナーシップの国際公共政策担当マネージャーは、中国には政治的・軍事的な野心があるとして、次のように述べている。
「中国の習近平国家主席は、東南アジアからアフリカまでを結ぶ広域経済圏構想“一帯一路”を通じて各国に自国の力を示すことにより、“中国の偉大な再生”を実現しようとしている」
「こうした中国の政治的・経済的な努力と南シナ海やアフリカ大陸における軍事力の増強は、いずれも世界の安全保障上、米国にとってますます大きな課題になっている」
中国が各国で請け負うインフラ事業の多くで抱える問題は、採算が合わないことだ。中国がコストを膨れ上がらせ、各国に多額の債務を負わせているためだ。この問題は、特にスリランカを苦しめている。
米誌「カレント・ヒストリー」4月号に掲載された記事の中で筆者らは、「中国が手掛けたいくつかのインフラ事業は、スリランカに恩恵をもたらした。だが、その他は同国を債務のわなに陥れた白い象(使い道がないのに維持費が高くつく無用の長物)だ」と指摘する。
それらには、深海港であるハンバントタ港やコロンボ・ポートシティ、マッタラ・ラジャパクサ国際空港などの建設プロジェクトが含まれる。
「法外な費用で進められたプロジェクトにより、スリランカは80億ドル(約8950億円、国の債務総額のおよそ10%に相当)という借金を抱えることになった。この金額は、スリランカが日本とインドに対して負っている債務の総額に近い。中国からの借り入れがほとんど収入をもたらさない疑わしいプロジェクトに使われたことに、多くの人がいら立っている」
「こうした状況は、中国が戦略的に重要な位置にある各国(ジブチやモルディブなどを含む)を債務のわなに陥れ、主要なインフラ施設を支配しているとの批判の声を高まらせてきた」
マハティール首相が避けようとしてきたのが、この債務のわなだ。首相は昨年8月にECRLプロジェクトの中止を発表。中国を交渉のテーブルに引き戻し、そして勝利した。
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領とパキスタンのイムラン・カーン首相が大胆にもマハティールと同じ行動を取り、スリランカと同じ運命をたどることから自国を救おうとすることはあるだろうか?──それは、まだ分からない。