時代にマッチした空間作りを優先することが、将来的な利益につながる
オープンから3年で改装。一見すると当初の計画があまりうまく行かなかったがゆえのリニューアルにも見える。しかし、そうではない。龍崎いわく、稼働率は平均で90%を超え、事業としては好調だったという。それでも改装に踏み切った理由は、ハード面の課題からだ。
「もっとホテルとしての完成度を高める余地があると思っていたんです。オープン当時はノウハウがなくて実施できなかった飲食要素を取り入れ、『ソーシャルホテル』が目指す地域との交流を促進できるのではないか。また、ラウンジでのテーブル配置・動線の改善や防音などの設備的な課題も、運用を通して見えてきました」。
龍崎は続けて、「オープン当初の『禅 x テクノロジー』というコンセプトが曖昧で、ホテルに実装できていなかった」とソフト面での課題を挙げる。そこでもう一度HOTEL SHE, KYOTOが持つ強みはなにか、他との差別化ポイントはなにかを考えた結果、ホテルの立地に着目。
「ホテルが京都の東九条、観光地が密集する地域とは反対側にある”意味”を反映したコンセプトにすべきではないかと思ったんです」
「京都らしさ」より「この街らしさ」を追求
そうした思いから、2018年の10月頃にコンセプト作りをスタート。観光地としての京都が過密状態にある中で「伝統的な京都らしさ」ではなく「東九条という街にSHE,がある意味」を深掘りしていった。
「京都の“ウチソト”文化により、東九条という場所は京都駅から1駅・徒歩圏内にあるにもかかわらず京都の"辺境"扱いをされてきたことに疑問を抱きました。東九条はコリアンタウンとしても知られており、京都駅以北のエリアに比べて、店や人通りが少なくひっそりしている。この土地が辺境であるというならば、そこに人の流れを生み出し、文化が涌き出でるホテルでありたいと考えて、『最果ての旅のオアシス』というコンセプトにたどりつきました」と龍崎。
「どんな歴史がある街でも、そこに歴史が存在すること自体が尊いこと。だから、私はホテルを建てる時にその街の歴史をリスペクトすることを大事にしています。今回のコンセプトは『京都らしくない』と思われるかもしれませんが、わたしたちなりに『この街らしさ』を突き詰めた結果生まれたものでした。東九条は今、芸術大学の移転が予定されていたり、市としてもアートに力を入れているエリア。われわれのホテルもその一助になれたらうれしい」
こうしたコンセプトだけに、内装からも“京都らしさ”は感じない。むしろ「オアシス」の参考になったのは「ホテル・カリフォルニア」に代表されるアメリカのロードサイドモーテルの世界観だったという。フロントでは「オアシス」というテーマにぴったりなアイスクリームの販売も開始。
「ホテルのメンバーで石川の温泉街を歩いている時に深夜にやっているアイスクリーム屋さんを見つけて、ドープだなと思ったのが導入のきっかけ。ただ、実際に事業としてアイスクリームをやりたいと思った背景には、グローバルで誰もが好きであること、ホテルにおいてオペレーションが簡単であること、アイスクリームというフォーマットの中でカスタマイズしやすいことがありました」