そもそも研究者たちが火星で水を探すきっかけとなったのが、クレーターの側面にある水の流れた痕跡のような線だが、それが出来た原因に関しては意見が分かれている。
かつて水が火星の地表を流れていたのかもしれないし、地表のすぐ下を水が流れていたのかもしれない。また、全く違うものが原因で残った跡なのかもしれない。
南カリフォルニア大学(USC)の研究員Essam Heggyは「我々は、(この痕跡が)亀裂に沿って地表に湧きあがった地下水によるものだという、新たな仮説を提唱する」との声明を発表した。Heggyはレーダー機器「MARSIS」で 火星の地表下を調べる欧州宇宙機関 (ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」のプロジェクトチームの一員だ。
この仮説はHeggyが共同著者のAbotalib Z. Abotalibらと共にまとめた論文で発表され、3月28日に学術誌「ネイチャー」のウェブ版に掲載された。
「この仮説は砂漠の研究から得た経験に基づいている。サハラ砂漠やアラビア半島でも同じメカニズムが見られ、火星でも同様のメカニズムが働いていないかを検証した」とAbotalibは述べた。
論文では、クレーターに亀裂が発生したことで、地下水が地表に湧き出たとしている。この地下水脈はこれまで考えられてきたよりも深い部分にある可能性が高く、人類の火星への移住を検討する上で、役立つかもしれない。
火星にはかつて存在していた水が、残っている可能性がこれまでの研究で示されている。2018年にはイタリア宇宙機関が火星の南極の下に地下湖があることを発見した。だが、今回の仮説が正しければ、さらに広範囲の地下に水が存在することになる。
火星は我々が想像する以上に、地球に似た惑星なのかもしれない。
「火星での地下水の状況を理解することは、30億年にわたる火星の変化を知ることにつながる。地球との類似性を探ることで、地球が同様の気候条件の変化を遂げて、火星と同じ道をたどるのかについても分かる。火星の地下水は重要な研究テーマとなる」とHeggyは述べた。