一方、いただいたプレゼントで「うまいな」といまでも思い返すのは、阿部真理子さんである。もう亡くなられてしまったが、痛快な毒舌と猛烈な気遣いで多くの仲間に愛されたイラストレーターで、おいしい胡麻のふりかけをいただいた。
「小山君、ふりかけがなんでいいと思う?」と尋ねられ、答えに窮していると、「これはもらった人が負担にならないのよ」と言う。
返礼の品を思案させる高価な贈り物は、相手の負担になりかねない。でも、胡麻のふりかけ程度であれば負担にならないし、食べるとおいしいし、「これくらいがちょうどいいのよ」と。そういう視点も大事にしなくてはいけないと思う(考えたら、ポン酢も京菓子も巻物竹輪も、阿部さんのそんな教えの影響かも)。
そういえば、弊社の顧問の趣味がガラス細工で、グラスをつくってはよく贈られた。正直言えば、最初は「これ、もらっても困るなあ」という出来だったのだが、どんどん上手になって、最近いただいたウイスキーのロックグラスはとても気に入っている。ガラス細工でも陶芸でも絵でも、趣味の世界でオリジナルのプレゼントをつくるというのは、案外といいアイデアかもしれない。
バースデー・サプライズの副産物
弊社では社員の誕生日にバースデー・サプライズを行うのが伝統だが、もちろん僕の誕生日にも社員が総出で何かを仕掛けてくる。
昨年はなかなか凝っていた。陶芸家・辻村史朗さんの奈良のご自宅を訪ねて小さな酒器を購入し、そこから計45人の社員が駅伝よろしく、東京までの約500kmを、週末を利用して3週間にわたって走ったのだ。
僕は誕生日当日、レストランでそれを知らされ、駅伝の様子をまとめたビデオを見せられ(「スタッフがひとつになって走りつなぎ、汗と涙が染み込んだ、世界でたったひとつのプレゼントを贈りたい。こうして、奈良と東京をつなぐ前代未聞、500kmのKOYAMA EKIDENが幕を開けたのです」というナレーションが入っていた)、そこへ最終ランナーが飛び込んでくる、という大掛かりなサプライズだった。
箱根駅伝を毎年楽しみにしている僕だから喜びひとしお、さらに僕が代表を務めるN35、オレンジ・アンド・パートナーズ、下鴨茶寮という個別の会社の社員が駅伝を通じてつながったことがとても嬉しかった。
社員の誕生を祝うというのは、どんな規模の会社でもやろうと思えばすぐにできることだが、花束やお祝いの言葉だけでなく、個人が喜ぶサプライズを付け足したらどうだろう。人を驚かせるためのアイデアづくりはきっと製品や営業やサービスにも生きるだろうし、なにより終わったあとに社員の間に団結力や絆も生まれる。心からオススメします!
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都造形芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動や、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。