ビジネス

2019.04.27

起業で苦楽を共にした盟友との別れ。頭ではわかっていても、涙が止まらなかった

共同創業者のラースさんに花束を渡す著者

第2の起業となった人工知能ベンチャー「フラクタ」のビジネスは、アメリカからイギリスへと拡大し、2月の出張で行われた数々の商談も成功裏に推移した。

その裏では、僕のスタートアップ人生の大きな転機となる出来事があった。それは、盟友との別れだった。

2月22日、イギリス出張の前週に、僕と一緒に会社を始め、フラクタを成長させてきた共同創業者、アメリカ人のラースさんが会社を去った。僕の近著『クレイジーで行こう!』(日経BP社刊)に、僕がどうやってこのラースさんと二人三脚でタッグを組んで、アメリカで事業を始め、またいくつかの資金調達を経ながらフラクタという会社を大きくしてきたか、その顛末を書かせてもらった。

たくさん喧嘩もしたが、たくさんの冒険を共有し、たくさん仲良くなった。2018年1月、営業担当役員のダグが入ってきて、それまで営業を統括していたラースさんの役割と責任が小さくなってから、チーフ・イノベーション・オフィサーとして、新しい取り組みを検討してくれていたところだった。10月には、少し熱量が落ちたなと感じていた。ベンチャー企業を立ち上げ、何度かの資金調達を乗り越えて、株式の過半を2018年5月末、栗田工業に売却した。

こうしたジェットコースターのような人生を歩むにつれ、またその時間軸が長くなればなるほど、会社の成長に必要な情熱を日々維持することが難しくなる。ある意味それは、ベンチャーの世界の常識でもある。昨日世の中に無かったものを、今日新しく生み出すのだ。昨日世の中になかった市場を、今日世の中に創造するのだ。どれだけのエネルギーが必要なのか、これは本当にやったことがある人でしか分からないだろう。

ラースさんとはこれまでずっと、役割と責任の切り分けなどについて話し合ってきた。しかしこのタイミングでラースさんが会社を去ることが、ラースさんとフラクタにとって一番良い選択であると、ものすごく長い時間をかけ、何回もラースさんと話をしたあとで、僕も納得していた。よく芸能人の夫婦が離婚すると、メディア向けにレターを送りつけて、「二人が離れて暮らすことが、二人に残された人生にとって一番の選択であると思うに至った」「これからも二人は良い友達です」などという話をすることがある。僕はこうしたことを、大いなる茶番だと思って見ていたが、今では、世の中にはそういうこともあるのだろうと思うようになった。

一つのことに情熱を傾け続けることの難しさ。それが苛烈であればあるほど、これを維持することは難しい。僕の情熱は、この情熱は一体どこから来るのか? それは自分ですら分からない。しかし、ラースさんが根源的に持っている情熱を、また新しいベンチャー(スタートアップ)、また新しい技術や新しい市場に活用することが、人類の歴史を、そして我々の社会を少しでも良くすることは間違いのない事実なのだ。だから、本来自由な身であるラースさんを、再び世界に解き放ち、ラースさんの人生を後押しすることが、僕にできる最善だったと信じたい。


左より著者、ラースさん、CTOの吉川君
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文=加藤 崇

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