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「あるお客様に、『この店はド素人だ』と言われて目が覚めました。自分が給仕できるのは、せいぜい1〜2テーブル。10〜12テーブル全てのお客様にご満足いただくには、サービスを仲間に任せて、自分はサポートに徹したほうがいい」

人を育てるために活用しているのが、「賄い」の場だ。ひらまつでは、料理人とサービスのスタッフ全員が同じ時間・場所で賄いを食べる。そこでコミュニケーションを積極的に取り、悩みを聞き、アドバイスを送る。

陣内にはサービスの極意がある。陣内は店内で全体が見渡せる立ち位置を熟知している。そのためある客と話していても、別のテーブルで飲み物がなくなったことに気づいて対応ができる。その視野の広さを評して、「背中に目がついている」と言われることも多い。

しかし、大切なのはテクニックより感性だという。「同じものが視野に入っていても、きちんと観察して相手が何を望んでいるのかを察知して動かないと意味がありません。後ろの目より、心に目をつけることが大事です」

気配りする姿勢は、経営者になっても同じだ。就任直後は、カリスマ創業者の後を継ぐ重圧があった。

しかし、平松から「俺はシェフとして走り続けてきて、強い意志で皆を牽引してきた。おまえはサービスの道を極めてきたのだから、俺と同じことをやる必要はない。頭を下げられる社長になればいいじゃないか」と言われて開き直れた。

「料理人が芸術家なら、私はパトロン。自分の情熱で引っ張るというより、社員がそれぞれの感性を発揮できるようサポートしていきます」

働きやすさを考えて、社長就任後に商業施設内の店舗を除いて定休日を導入した。一方で、早く店を持ちたいという社員には職場で自由に勉強させている。社員一人ひとりに合わせてサポートする経営は、まさしく陣内流だ。

社員がいかに気持ちよく働けるか。ひらまつの評判をつくった陣内のホスピタリティは、いま社員に向けて発揮されているようだ。


じんない・たかや◎1965年、神奈川県生まれ。辻調理師専門学校フランス校卒。87年、ひらまつ亭(現・ひらまつ)に入社。東京・広尾の「レストラン ひらまつ」支配人、大阪・中之島の「ラ・フェット ひらまつ」の総支配人を経て、13年に取締役就任。16年から現職。53歳。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

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