「とにかくやってから、直せばいい」。ヤマハ社長が語る「組織は手段」の信念

中田卓也 ヤマハ代表執行役社長(フォーブスジャパン4月号より)

「エンジニアは『実験設備がないからできない』という。でも、できない理由は聞きたくない。だから施設をつくって外堀を埋めてやりました」

静岡県浜松市。2018年5月にオープンしたヤマハのイノベーションセンター1階には、巨大な「無響室」がある。内壁や床、天井は音を吸収する素材でできている。この部屋をつくった理由を冗談めかして語るヤマハ代表執行役社長、中田卓也の声も、壁に吸い込まれるように消えていった。

この施設には、無響室の他にも、音が減衰しない「残響室」や高性能の「録音スタジオ」など、最先端の実験設備が並ぶ。イノベーションを生むのに最適な環境だ。

ただ、この施設の特徴は実験設備だけではない。注目したいのは、むしろワークスペースだ。室内を仕切る壁はなく、フロアをつなぐ階段はX型で、上下の階が地続きのように見える。ここで働くエンジニア約1500人が、1つの空間を共有する構造になっている。

「それまで研究開発部門は楽器や音響機器ごとにオフィスが分かれていた。しかし、異なる経験や考えを持つ人が日常的に会話する環境のほうが、イノベーションは生まれやすい。そこでオフィスをこの施設に統合しました。フロアの間仕切りもすべて取り払い、フラットにしました」

取り払ったのは物理的な壁だけではない。従来、ヤマハの組織は、ピアノならピアノ事業部、管楽器なら管弦打楽器事業部というように細分化されていた。しかし、社長に就任した直後の13年8月に事業部制を廃止して、機能別に再編。縦割りだった組織の壁を取り払った。

「『ヤマハの強みは総合力』と言われますが、幅広くやっているというだけで本当に強みと言えるのか。私たちが持っている力を掛け合わせて、他の専業メーカーではつくれないものを生み出してこそ、総合メーカーとしての強みになるはずです」

新組織のスタートは、方針発表から1カ月後。現場からは「1カ月では調整できない」と反発の声があがったが、中田は意に介さなかった。

「上杉鷹山は『為さねば成らぬ何事も』といった。とにかくやってから、おかしなところは直せばいい」
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文=村上 敬 写真=苅部太郎

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